とりぶみ
実験小説の書評&実践
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【小説】熱目漱雪『夢十夜』の変奏   (2014/05/27)
 ジョルジュ・ペレックという作家の作品に『煙滅』というリポグラム小説がある。リポグラムとは文字落としという言葉遊びの一種。件の『煙滅』はフランス語における最頻出アルファベット「E」の文字を一度も使わずに書かれている。当然翻訳は不可能だと長らく思われていたが、なんと日本語訳が刊行された。しかも「イ段」を一切使わずに翻訳するという驚異の離れ業であった。
 研究によれば、日本語において最も使用頻度の高い仮名は「イ」である。そして、最も使用頻度の高い段は「ア段」だそうだ。それは果たしてホントーデアルカ? 実感していただくため、夏目漱石『夢十夜』の第一夜の、ア段の音を「Z」に、イ段の音を「X」に置き換えてみます。では、ご覧あれ。


ZXXXZ
 こんZ夢をXZ。
 腕組XをXてZくZ元XすZってXると、Zお向XX寝ZおんZZ、XずZZ声でもうXXZすとXう。おんZZZZXZXをZくZXXXて、XんZくのZZZZZうXZねZおをそのZZX横ZえてXる。ZっXろZ頬の底XZZZZXXのXろZ程よくZXて、くXXるのXろZ無論ZZX。到テXXXそうXZXえZX。XZXおんZZXずZZ声で、もうXXZすとZっXXXっZ。X分もZXZXこれZXぬZと思っZ。そこで、そうZね、もうXぬのZね、と上ZZ覗X込む様XXてXXてXZ。XXZすとも、とXXZZZ、おんZZZっXXと眼をZけZ。大XZ潤XのZる眼で、ZZXZつげX包ZれZZZZ、ZZXX面XZ黒でZっZ。そのZ黒ZXとXの奥X、X分のすZZZZZZZX浮ZんでXる。
 X分Z透X徹る程ふZくXえるこの黒眼のつZをZZめて、これでもXぬのZと思っZ。それで、ねんごろXZくZのそZへくXを付けて、XぬんZZZろうね、ZX丈夫Zろうね、とZZXXZえXZ。するとおんZZ黒X眼を眠そうXXZっZZZ、ZっZXXずZZ声で、でも、Xぬんですもの、XZZZZXZとXっZ。
 Z、ZZXのZおZXえるZXとXっXんXXくと、XえるZXって、そZ、そこX、写ってるZZXZせんZと、XこXとZZってXせZ。X分ZZZって、ZおをZくZZZZZXZ。腕組XをXZZZ、どうXてもXぬのZZと思っZ。
 XZZくXて、おんZZZZこうXっZ。
「XんZZ,埋めてくZZX。大XZXん珠ZXでZZを掘って。そうXて天ZZ落Xて来るほXのZけをZZXるXX置XてくZZX。そうXてZZのそZXZってXてくZZX。ZZZXXXZすZZ」
 X分Z、XつZXX来るZねとXXZ。
「XZ出るでしょう。それZZXZXずむでしょう。それZZZZ出るでしょう、そうXてZZXずむでしょう。──ZZXXZXZXZZXXへ、XZXZZXXへと落XてXくうXX、──ZZZ、ZってXZれZすZ」
 X分ZZZってうZずXZ。おんZZXずZZ調XをXXZんZXZげて、
「Zく年ZってXてくZZX」と思XXっZ声でXっZ。
「Zく年、ZZくXのZZのそZXすZってZってXてくZZX。XっとZXXXZすZZ」
 X分ZZZZってXると答えZ。すると、黒XXとXのZZXZZZZXXえZX分のすZZZ、ぼうっと崩れてXZ。XずZZXずZ動Xて写るZげをXZXZ様X、ZZれZXZと思っZZ、おんZの眼ZZXXと閉XZ。ZZXZつげのZXZZZZXZZ頬へZれZ。──もうXんでXZ。
 X分ZそれZZXZへ下Xて、Xん珠ZXでZZを掘っZ。Xん珠ZXZ大XZZめZZZふXの鋭XZXでZっZ。つXをすくうZXX、ZXのうZXつXのXZXZZXてXZXZXZ。XめっZつXのXおXもXZ。ZZZXZZくXて掘れZ。おんZをそのZZXXれZ。そうXてZZZZXつXを、上ZZそっとZけZ。ZけるZXXXん珠ZXのうZXつXのXZXZZXZ。
 それZZほXのZけの落XZのをXろってXて、ZろくつXの上へ乗せZ。ほXのZけZZるZっZ。ZZXZXZ大ぞZを落XてXるZXZX、ZどZ取れてZめZZXZっZんZろうと思っZ。ZXZげてつXの上へ置くうXX、X分の胸と手Z少XZZZZくZっZ。
 X分Z苔の上XすZっZ。これZZZく年のZXZこうXてZってXるんZZとZんZえZZZ、腕組XをXて、ZるX墓せXをZZめてXZ。そのうXX、おんZのXっZ通XXZXZXZZ出Z。大XZZZXXでZっZ。それZZZおんZのXっZ通X、ZZてXXへ落XZ。ZZXZんZでのっと落XてXっZ。XとつとX分Zん定XZ。
 XZZくするとZZZZくれZXの天道ZのそXと上ってXZ。そうXてZZってXずんでXZっZ。ふZつとZZZん定XZ。
 X分ZこうXう風XXとつふZつとZん定XてXくうXX、ZZXXをXくつXZZZZZZX。Zん定Xても、Zん定Xても、XつくせZX程ZZXXZZZZの上を通X越XてXっZ。それでもZく年ZZZ来ZX。XZXXZ、苔のZえZZるXXXをZZめて、X分ZおんZXZZZれZのでZZZろうZと思XZXZ。
 するとXXのXZZZZすXX分の方へ向XてZおXくXZ伸XてXZ。XるZXZZくZって丁度X分の胸のZZXZでXて留ZっZ。と思うと、すZXと揺ZぐくXのXZZXX、心持XくXをZZぶけてXZ細ZZXXXXんのつぼXZ、ふっくZとZZXZをXZXZ。ZっXろZゆXZZZのZXで骨XこZえる程XおっZ。そこへZるZの上ZZ、ぽZXと露Z落XZので、ZZZX分の重XでふZふZと動XZ。X分ZくXをZえへZXて冷ZX露のXZZる、XろXZZXZX接吻XZ。X分ZゆXZZZおをZZす拍XX思Zず、遠XそZをXZZ、ZZつXのほXZZっZXとつZZZXてXZ。
「Zく年ZもうXてXZんZZ」とこのとXZXめてXZつXZ。


 ──ご覧の通り、とても読めたものではない。
 しかし、日本語の語彙はまことに豊饒で、ア段イ段ごとき無くなった所でフランス語に負けるような貧弱な言語ではない。第二夜を、ウ段エ段オ段のみで変奏してみせます。ただし、使える母音をU・E・Oとし、『煙滅』日本語版では禁じられていたイ段の字は認める(拗音を含むシュ・ショなどは可、ということ)。


五分の十よる
 この夢を見聞する。
 和尚のむろを出て、通路てで己の書屋しょおくへ戻ると法灯の炎朦朧と灯ってる。太腿ふとももすねとの途中のせつを布団上へ着けて、灯明の毛をると、秋桜の如く灯油ぽとっと朱の燭へ落つ。それで書屋のぽっと煌々と変ずる。
 布の戸の、蕪村のふでです。黒の楊柳ようりゅうを濃く薄く、ここそこへ線描、凍えてる様子の漁夫帽をもとへ向けて土手の上を通る。とこ洋上文殊ようじょうもんじゅふくを着けてる。燻って残る線香、黒の方で現況も香を放出する。広袤こうぼう仏家ぶっけゆえ無音で、者のの存せぬ。黒の天井へ写る円灯の光芒の揺れ、上方を向くと動物の如く目へ映る。
 けつを据えず、弓手ゆんでで布団をめくって、馬手めてを突っ込むと、思う所へ、十全と存する。存するとほっとするので、布団をもとの如く戻すと、その上へどっと着く。
 おめえでももののふです。もののふ、そうすると悟得当然でしょうと和尚申す。そうずっと悟得不能の所を以て考ずると、おめえもののふでねえでしょと申す。凡夫の屑ですと申す。ふうん怒ってるねと述べて嘲笑する。無念を思うこそ悟得の証拠を持って来ることと述べてくるっと向うをむく。不遜者め。
 接する大室おおむろの床へ据えてる漏刻ろうこくの今度の刻を打つ目前、瞭然と悟得するぜ。悟得の上で、この夜四度目の往訪をする。それで悟得を元手で和尚の首を受け取る。悟得せぬと、和尚の定命を取れぬ。どう転んでも悟得する。己こそもののふぜよ。
 悟得せぬと切腹する。もののふの侮辱受けて、存生するのもよくねえ。すっと往生する。
 こう考ずると、己の手覚えず布団のもとへ潜る。それで朱筒しゅづつのどすを抜く。ぐっとを持って、朱の筒を向こうへ除くと、冷てえ刀剣突如おぼろの書屋で照る。すげえもの手元をすうすうと抜ける如く思う。それで、ことごとく剣の末へ揃って、痛憤を寸毫へ籠めてる。この鋭え刀剣の、無念のきょく鋲の頭部の如く詰め、九寸五分の先頭へ及んで不承不承鋭く突出するのを瞥見べっけんすると、忽然こつぜんぶすっとするのを欲す。胴の血漿けっしょう右方の手へ流血すると、持つ柄ぬるぬるする。口辺こうへんふるえる。
 どすを筒へ突っ込んで右側うそくへ寄せ付けて置くと、それで禅を組む。──趙州じょうしゅう述べる無と。無ってどれのことぞ。糞坊主めとくうくくむ。
 口腔の奥の方を強くこうするゆえ孔穴こうけつへの高熱の呼吸凄く出る。おでこ横釣って鈍痛を覚ゆ。眼を普通の相乗も太く剥く。
 幅目へ付く。法灯目へ付く。六畳目へ付く。和尚の禿頭とくとう瞭然と目へ付く。相好を崩す上嘲笑する声も聴取する。不遜者の坊主め。どう転んでもその禿頭を首級とするぞ。悟得するぜ。無です、無ですと舌根ぜっこんで念ずる。無ですと述べるけど結局線香の余香する。分不相応の線香め。
 突然拳骨を結ぶと己の頭部をこれでもって程ぶつ。それで口腔の奥の方をぐぐぐと咬する。両の腕の付け根へつゆ出る。背、棒の如く変ずる。太腿と臑との節を継ぐ所突然苦痛を生ず。太腿と臑との途中の節折れてもどうってことねえと思う。けれども苦痛で。苦で。無、すぐ出て来ぬ。出て来ると思うとすぐ苦痛を生ず。憤怒する。無念です。とても痛恨です。目のつゆほろほろ出る。躊躇せず胴を鉱物へぶつけて、骨も臓物も区々と寸裂するよう欲するよ。
 それでも目を瞑って凝然ぎょうぜんと尻を据えてる。捨ててえ程切ねえものを胸へ盛ってこんを詰める。その切ねえもの長躯全ての腱を上方へのぼせて、毛の孔穴こうけつを噴出するぞ噴出するぞと焦慮するけれども、何処も全面詰めてて、丁度出る所のねえ如く殺生極限の様子ですよ。
 追っておつむ変梃へんてこと変ず。法灯も蕪村の画も、六畳も、床の構造も存すれどねえようで、ねえようで存する如く目へ付く。と申せど無ちょっとも現前せぬ。疎放そほうで禅を組んでるようです。ところへ忽然接する室の漏刻ボーンと響動どよむ。
 えっと思う。馬手をすぐどすへ乗せる。漏刻ふうをボーンと打つ。



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