とりぶみ
実験小説の書評&実践
3M   (2008/02/07)
 もう十年前になるのかな。
 あれは高校三年の春だった。
 男子はしたわ。チカチッカ、車でクラブ逃避。
 背後に緑の濃い山をいだいたその村は、海に突きだした砂浜を見おろす場所に位置していました。砂浜の左手は港になっていて、桟橋にいくつかの漁船が停泊しています。空気が澄んだ土地で、夜になると星がきれいに見えます。
 僕は植物が好きでも嫌いでもない。だから庭がどれほど華やかになろうとも興味は無い。だが妻が夢中になるのは余り気に入らない。
 で今掘ってるかっつうと、掘ってない。休憩中だ。何事にも息抜きは必要なのさ。わかるだろ? 働き続けてたら疲れちまうからな。
「──おまえがもっとブスならいいのにな。」
「どうしてあなたはそう言うの?」
「だっておれは心配だよ、おまえがそれだけカワイイとおまえの浮気が。」
「わたしは浮気なんて絶対しない。」
「わかったわかった。おれはおまえを愛してるよ。」
「あなたはわたしのどこが好き?」
「おまえの顔はスター並にかわいいいって評判だし、おれももちろんそれが大好きだよ。」
 あたしはブスが大キライ。年とった女がキライ。ひたいに彫られたミゾや目じりに刻まれたシワ、シミだらけの肌にたるんだほほ。気持ちが悪い。あたしは老人を軽蔑する。彼らのようになるくらいだったら、若いまま早死にしたい。
「りう人福祉は、もちろん筆b要であると考えている。だがそrwは表面上の意いきであっって、本当の所では老人らは早宇亡くなって島えと思っています。」
 三度の飯と睡眠以外にはこれといった義務を持たないかれらは、明け方から日暮れまで浜辺に座りこんで、あきもせず常識を無視した空想を話していました。
「全国家の完全提携・世界平和の理想、そんな事は所詮夢物語だと言う人が居る。確かにその通りだ、そういう人が居る限りは。
 他人から言わせれば私の行動は異常かもしれない。でも、他人は他人。私にとっては至って普通なの。今の私が信頼できる人間は鏡の中の自分だけ。私の孤独を癒してくれるのは、同様に孤独な私だけなの。他人からとやかく言われたくない。
 二人は背中に浴びせられる嘲笑など気にもかけないといったふうに、懸命に櫂で水面をかき続けました。
「俺たち頭良いなあ」
「ほんとほんと。日本の首都だって言えるし」
「富士山、なんて言わないでくれよ」
「(あれっ、違うの!?)わかってるよ、それぐらい」
「じゃあどこだよ」
「渋谷、かな?」
「うん、確かそんな名前だった。正解!(メモっとこう)」
「あなたがたの創造なさる物は、ことごとく素晴らしい。ああご主人様、人様は神でございます。人が祝ってやってんのに無言かよ、いい度胸してんなあ。おい、ちゃんと喜びやがれ。声に出してありがとうを言いやがれ! おまえが今どこに居るのか知らねえが、人目も憚らず大声を出せ! さあ、言え! ありがとうって七十五デシベル位で叫べ!」
 わたくしたちは声をひそめながら話していました。しかし、そのうちに興奮してきて、知らず知らず声が大きくなっていました。
「(ポツリと)早く死んでよ。」
「今何て言った!」
「…何度でも言ってあげるよ。早く、死んでくれよ。」
「お前、おじいちゃんに向かって何て口聞きやがるんだ!」
「(ぶちキレて)うるせえなこのクソジジイ、とっととくたばっちまえ!」
 軍曹はサーベルをすらりと抜き、宙で無茶苦茶に舞わせてから切っ先を伍長の喉元に突きつけました。
 人生は短い。寄り道してたら間に合わない。死神の鎌は、もうそこまで迫っている。
 部屋中に飛び散った鏡の破片と共に血が飛び散った。
 老人は刀を鞘に収めてから静かに言う。
「悪いな君。目の前で友達を殺してしまって。」
 人生は何が起こるか解らない。人の心ほど法則性の無い物があるだろうか。永遠の愛を誓い合った曾ての恋人達も、一人は刑務所・一人は墓の中。
 彼女の死は悲痛な出来事だった。学校側が隠蔽したので新聞沙汰にはならなかったが、同期生はみんな知っている事件だ。
 遺体のかたわらには一通の封筒が置いてありました。厳重に封印されていて、表に「小松軍曹以外の人間は中身を見るべからず」と断り書きがしてあります。
「ご覧下さい。この手紙には呪われた文章が書かれております。読んだ人間を死に至らしめる、忌まわしき文章であります。にわかには信じられないかも知れませんが、効果は実証済みであります。
 俺はからかいつつ、誰からの手紙かたずねた。その封筒には「○○(彼女の名前)さんへ」とあるだけで、差出人の名は無い。彼女は封筒を開けてみた。中から出てきた便箋はノートの切れ端だった。そこには赤インクで次のようなことが書いてあった。
 二学期の遠足は山登りに行くのですが、機に乗じて吠斗を崖から突き落としてしまおうかと思っているのです。如何に豪傑な閣下と雖もこの計画には少なからず嫌悪感を抱かれるかと存じますが、何卒御理解の程お願い致します。
 就きましては、これから起こる「小学生転落死事件」は、事故という方向で決着するようにお取り計らい戴けないでしょうか。 先ずは右御願いまで。匆々頓首。
 ヨシトは恐ろしくなった。暖かい血が流れているのかどうか疑わしくなるセリフだった。
 忌まわしい殺害予告状だが、これを知る者が書いた本人と亡くなったあの娘と俺だけではもったいないと思い、公にすることに決めた。
 僕は黙ったままよっちゃんの手を引き、ジャンボすべりだい下のトンネルへ向かった。ここなら誰も来ない。誰にも聞かれない。よっちゃんだけにはあの日の出来事を語ってしまおう、全て吐き出して気持ちを楽にしよう。
「よっちゃん、この事は誰にも話さないでくれよ。どうかお願いだ。二人だけの秘密にしてくれ。もし話した事がバレたら、僕、永井に殺されちゃうかも知れない!」
「そんなの勝手過ぎるだろ。ひどい責任転嫁だ。じいちゃん達が当事者なんだ、俺は関係無い。被害者に謝れってさっき言ってたけど、俺は謝る気がしないね。だって何も悪い事してないもん。じいちゃん達が腹を切って謝れよ。」
 男は無言で席を立ちた。呆れ果てたのか軽蔑したのか、はたまた同情の余り不憫に思うたか、兎に角帰りて行きた。
 止天毛左美之以
 朕はいつしか頬を濡らしておぢゃった。再び拭われて、鋭く画面をお睨みになる。
 鏡の中で、私が今にも泣きそうな顔をして立っている。
「今日の出来事は、思い出したくも、ないよ。」
 朕は自殺したくなられた。けれど死ぬのはおっかない。従いて引き篭りを決め込んだ。二親に寄生して、電子世界だけに生きる事とあそばした。二次元ならば過去の失態は隠し遂せるからのう。
 僕はそのまま自分の教室に入っていった。ガラガラガラ、力無く滑るドアは静寂への遠慮からではない、世にも恐ろしい光景の目撃者となってしまった絶望感からだった。
 僕の入室を、クラスのみんなが注目した。
「あっ、バンソー(僕のあだ名)が来た」
「おはよー」
「よく眠れたかい」
「うん」
「そっちこそ」
 疲れと酔いを振りほどいて起き上がると、今度は憂鬱と倦怠が降ってきて私をベッドに押しつける。目は覚めてるのに身体は束縛されたまま、箸に挟まれた気分のまま。しばらくボーッとしたあと、ひきちぎれるほどに伸びをしてようやく起き上がる。
 それからというもの、僕は教室でそわそわし始めた。先生の授業もうわのそら、「ぼーっとするな」と注意される事しょっちゅう。休み時間も、逃げるように校庭へ出ていった。
 ある日の放課後、元気のない僕をよっちゃんが心配してくれた。
「おまえたちは稼ぎが少ない、いつまで待っても業績が伸びない、後輩たちに追い抜かれる、仕事に取り掛かるのも終えるのも遅い。云々。」
 クドクドしいお説教は長い間続いた。それがようやく終わって地上に出た時、陽は大分高くなっていた。
 ソーとクウは満足げに月から地球を見あげました。
 あれを見ろよ。あいつらの作った物を。眼下に広がる建物の群を。あの屋根の中には人間がぎゅうぎゅう詰めさ。あんな狭い所に押し込められて、それでも生きているんだから不思議なもんだよ。
 ここからおまえらを見渡していると、実際その数に驚くよ。よくもまあそれだけ繁栄したもんだよ。その数だけは誇っていいと思うぞ。まあ,誇るも何も、弱っちいから集まって暮らしているんだろうがな。
「よく目をこらしてごらん。見えるよ、かれらの生活が。まるでコウのように気どった、洋服を着ている人たちがたくさん歩いているね。」
 流れが乱れている場所があった。見ると、数人のゴロツキがサラリーマン風の男をリンチしている。サラリーマン風の男は道行く人に助けを求めていたが、人の流れは止まる事がなかった。
 人間というものは何故争いばかり繰り返すのであろう。人類の歴史は戦争の歴史とも言われる位である。
「本当だ。でも、あっちの村はもっとすごいぞ。箱のような船が、煙を吐きながら地上を走っているぜ。」
「えっ。どっちどっち? わあ、本当だ。」
 電車は動き出した。ヨシトはぼんやりと、流れる景色を眺めた。春の空は赤く染められつつある。
 電車は三人を乗せて走り続けました。その間、車内では一発の銃声が響き渡りましたが、幸いにして乗客は少なく、居ても耳の遠いおばあちゃんばかりだったので迷惑は掛かりませんでした。
 あいつらは何をしているんだろ? あの箱全てに人間がうじゃうじゃ入ってるって信じられるかい? あいつらは何のために生きているんだろ? あいつら自分たちが何のために生きているのか知ってるのかな?
 頭の中が真っ赤になった。手当たり次第に鏡を掴み、投げつけた。可愛い人格の宿るピンクの鏡が、理知的な人格の鏡が、男の子っぽい人格が、次々と砕けた。――
 あれから十年。もう誰もふりむかない。それどころか避けて通る。あたしは美しくなくなった。三十代なのに老婆のような肌。眼はくぼんで歯は抜け落ちた。おまけに交通事故で鼻がつぶれた。鏡はとうの昔に投げ捨てた。
 若いころは良かったよ。いい男をとっかえひっかえで。得意の絶頂だった。それが、今じゃどう? むりな整形や健康に悪い化粧のくりかえしでからだはボロボロ。軽蔑してたブスどもの仲間入り。いえ、彼らよりもなおいっそう悪いかも。ああ、こんなことになるなんて思わなかった。見下していた人たちと同じ、もしくはそれ以下の女になるなんて。はずかしくてたまらない。
 全盛期の訪れた者は、不幸にして人生の下り坂を転げ落ちる事になる。成長の早い者は、他人よりも早く衰えるのが常である。
 ああ、本当に過去の己は恐ろしい。若かりし日の己は他人である。厄介な代物と言っても差し支えない。
 自信過剰は身を滅ぼす。しかし、自尊心を挫かれなければ身を保つ。自尊心を挫く存在を破れば我が身は安泰なり。
 今まではいじめられる事しかなかった。だけど、いじめる側に立ってみて、初めて知るこの征服感。やめられない。それは、いつしか快感となった。矛盾と知りながらも、私はあの私を嫌悪しバカにし続けた。
 其の男は何う爲やうもない愚物である。第一に頭が惡い。頭の惡さは顏を見ても判明する。人は耳のに、兩眼の奧に、顏の内に腦を有する。顏は腦の表面である。だから、莫迦そうな面を晒して居る者は大抵莫迦である。此の論理から行けば其の男も莫迦であるに決まつて居る。そして實際莫迦なのである。
 みんながぼくを軽蔑する。ブタブタと罵る。きみたちはおろかほかの動物たちも。
 実の所を言えば、吾輩が本気を出すと人間は滅びるのである。しかし本気を出さず、彼らに天下を譲っておる。何故か。決まっている。彼らの増上慢を観察して楽しんでいるのである。
 朕は孤高でおぢゃる。それ故友人なぞお作りにならぬ。
 この童話は、我々の価値観が狂っていないかどうか、鋭く警告を発する作品と言えよう。我々はこの童話を正当に評価し、後世の子ども達へ伝えていくべきだ。折れ曲がった定規を振り回すのは、歳取った衒学先生達だけで沢山なのである。
 結局妻はガーデニングを続けている。好きにさせておこう、価値観は人それぞれ違うのだから。




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