とりぶみ
実験小説の書評&実践
将棋中継   (2008/01/31)
「ちびっこ将棋巌流島。今日は永世名人と虻亡冠の対局を中継します。実況はわたくし大橋九段。解説は競馬ジョッキーの西騎手です。西さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願い申す」
「西さん。本日の見どころを教えて下さい」
「うむ。将棋史上初めて『なびと』の称号を獲得したナガセ棋士と、冠の亡いアブ棋士。どちらも斬新な棋風で知られておるからまともな対局は望めん」
「ちびっこ将棋巌流島なんて言ってますけど、二人とも三十代なんですよね」
「そうなの?」
 先手、5六歩。
「さあキックオフ直後の初手、先手の永世名人、ど真ん中の歩兵を匍匐前進させました」
「中飛車にするつもりだろうか。後手の虻亡冠はどう動く」
 後手、5四歩。
「お、出ました鏡戦法」
「よくわからないから相手と同じ行動をしておこう、という。小学生がよくやる戦法である」
 先手、5五歩。
「永世名人さらに詰めましたね。いわゆる玉砕戦法。敵の目の前にその身を投げ出しました」
「一番槍はこのわしぞっていう、目立ちたがり精神旺盛な歩兵による、中央突破をもくろむ無謀な一手。これでは相手にタダで歩を献上するようなものだ」
 後手、同歩。
「そりゃそうですよね。虻亡冠、難無く歩を取りました」
 先手、5八王。
「王将みずから御出陣」
「歩兵を捕られて逆上したのか、もはやヤケクソの単騎駆けが始まったのう」
 後手、5七歩打ち、王手。
「後手の虻亡冠、さきほど取った歩を王将の目の前に打ちました。奇襲作戦です」
「でもこれって二歩だよな」
「二歩ってなんですか」
「将棋のルールでは、同じ縦ライン上に歩を二つ置いてはいけない。二歩は反則行為である。問答無用で後手の反則負けである」
「つまり」
「たった六手で勝負あり、だ」
「えー」
 先手、同王。
「……と、あらら。勝負続いちゃってます」
「対局している当人同士も、立会人も、誰も二歩に気が付かない」
「まあいか、番組の尺の問題もあるしこのまま続けさせるとしますか。先手、歩を取り返しました」
 後手、5六歩、王手。
「後手さらに攻め立てます」
「旧日本軍スピリッツにあふれた特攻作戦である」
 先手、同王。
「当然犬死にです」
 後手、5二飛、王手。
「相手王将の暴走を食い止めるべく飛車が5筋に顔を覗かせました」
「おお助さん」
「助さんて何ですか」
「将棋通の間では、角行を『角さん』と呼ぶのに対し、飛車は『助さん』の愛称で親しまれておる」
「へー」
 先手、6五王。
「王様、飛車の睨みをひょいと避けてさらに敵陣へ攻め入ります」
「フットワークが軽快だね」
 後手、8二飛。
「王将のあまりにもすさまじい突撃に恐れを成したのか、飛車は元の位置におとなしく戻りました」
「王将の貫禄勝ちである」
 先手、5四王。
「王様ひたすら北上」
「まさしく裸一貫」
 後手、パス。
「パス? 将棋にパスってありなんですか」
「なし」
「いいんですか」
「別にいいんじゃない」
「そ、そうですか…」
 先手、5三王成り。
「え、成った!? 王将って成れないんじゃなかったっけ!? 先手、駒をひっくり返します。でも王将の裏には何も書いてないはず…あ、書いてある。自在天王って書いてある。西さん、自在天王って一体何ですか」
「我々のよく知っている将棋・本将棋ではなく、大昔の将棋・摩訶大大将棋に使う駒だ。どこにでもワープできるっていう、無敵の駒」
「んな無茶苦茶な」
 後手、5二玉、王手。
「後手の虻亡冠、よもやの自在天王降臨にも頓着せず、玉将みずから迎え撃ちます。ついに王同士の一騎打ち。首脳会談実現。でも将棋ってそういうゲームじゃない」
 先手、同王。
「玉将取っちゃった。取っちゃったよ。詰めて詰めて、これ以上逃げられない状態まで追い込んで降参させるのが本来の将棋なのに」
「見事な暗殺劇だった」
「これにてゲームセット、ですか。やれやれ、まったく、ハチャメチャが押し寄せてくるあきれた対局でした」
「ん?」
「後手の虻亡冠、負けたはずなのにニヤニヤ笑っています」
「ちっとも悔しがってないな。玉将を取られて残念そうでもない。果たして…」
「何でしょう。どうしたのでしょうか。あ、取られた玉将を手にしました。駒を裏返して永世名人に示す…そこには『スパイ』の文字が」
「他の全ての駒には負けるけど、大将だけには勝つ駒。軍人将棋の駒じゃねーか」
 まで。17手を持ちまして虻亡冠の勝ちでございます。




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