とりぶみ
実験小説の書評&実践
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ネクタイ   (2008/01/17)
 一組の夫婦。晩酌をしながら、夫が何かに気付いて妻に問いかける。
「なんだそれは」
「は?」
「なんだよそれ。なんだそれは」
「なんだって…指輪よ」
「そんなこた見りゃわかる。どうしたんだ」
「え」
「どうしたと聞いている。そんな物を買う金はおまえにはないはずだ」
「ああ、そういうことか」
「何がそういうことだ。どうしたと聞いている。おれにナイショでヘソクリでも隠していたのか」
「あのねえ、あなた。これはもらったの」
「だ、誰からだ」
「ステキな異性からよ」
「ス、ステキな異性!?」
「そうよ。あ、でも今はそんなにステキじゃないかも」
「ふ、不倫じゃないか。こ、こ、この、イ、イ、淫売!」
「あらヒドイわね。昔の話よ。結婚する前の」
「処女だと思ったからもらってやったんだ。り、立派な浮気だ」
「もらってやったとは随分エラそうね」
「ゆ、許せん。裁判だ慰謝料だ。慰謝料だ慰謝料だ」
「ちょっと落ち着いて」
「これが落ち着いていられるものか」
「ちょっと落ち着いてったら。お隣に聞こえるわよ」
「こ、この期に及んで、こ、この」
「落ち着いて聴きなさいっての。これ、実はあなたからのプレゼントよ」
「え」
「交際一周年記念の。婚約指輪とは別の。大事にしまっておいたから普段はあんまりつけなかったけど」
「あ」
「そんなことも忘れたの」
「いや。そう言えば、それ、その。そうだね」
「あらあら。お忘れかい。お酒を呑んでるとはいえ、ちょっとひどくない?」
「めんぼくない…」
「昔はステキな異性だったけどなぁ。今やこんな。みっともない」
「反省します…」
「じゃあ逆に聞くけど。あたしがあげたアレ、まだ持ってる?」
「え。アレって何だ」
「アレよアレ。あたしがプレゼントした、アレ。わかるでしょ。まさか忘れてないわよね」
「えーと。ああアレか。持ってるに決まってるじゃないか」
「じゃあ、持ってきてよ」
「今か?」
「そうよ今すぐ」
「面倒だ」
「ほら。なくしたんじゃない」
「ちがうちがう。しまってあるんだ。だから出すのが面倒なんだよ」
「出すのが面倒? あたしのプレゼントは捨てるに捨てられない厄介なお荷物?」
「わかったわかった。今持ってくるよ…。どこにしまったっけなぁ。あれぇ、どこだっけなぁ」
 ややあって、夫は一本のネクタイを持ってくる。
「あったあった。これだろ。これこれ。いやぁ、ずいぶん探しちゃったよ…」
「なあに、そのネクタイ」
「何っておまえ…。おまえからもらったネクタイだろ」
「ふうん」
「おまえからもらったネクタイじゃないか。忘れたのかよ」
「そんなガラのネクタイ、初めて見るけど?」
「え…。そんなわけ」
「そんなわけあります。初めて目にします」
「ウソだよ。ウソつけ。だってこれ、おまえがくれたネクタイじゃないか」
「いいえ」
「ご冗談でしょ。あの。違いますか」
「ご冗談ではありません」
「間違えました。ちょっと待ってて下さい。今代わりの物を持って来ますから」
「待ちなさい」
「なに。いえ。なんですか」
「そのネクタイ、よく見たら、やっぱりあたしがあげたやつね」
「な…! 何を。馬鹿者、そうだろやっぱり。やっぱりそうだ」
「つい忘れてしまって。ごめんなさい」
「旦那を変に試しやがって。ただじゃすまさねえぞ」
「ご自分で買ったネクタイじゃないんですものね。じゃあ、あたしがあげたに決まってるわよね」
「当たり前だ! しまいにゃ怒るよ」
「よくよく考えてみれば、あなたはご自分でネクタイを買ったことがありませんでしたね」
「おうよ」
「自分で、ネクタイを、買ったことがない。たしかですね?」
「しつこいな。そうだよ」
「ところで。そもそもそれは、いつごろ誰からもらったものですか」
「誰からって…。そりゃ、おまえからもらったんだよ」
「あたしはあげてません」
「え」
「あげてません。あたし以外の誰からもらったんですか」
「だってさっきおまえ。さっきはおまえ。おまえがくれたって」
「あれはあなたを引っかけるためのウソです。まんまと引っかかってくれた」
「ああ、その、なんだ。自分で買ったんだよ」
「ウソおっしゃい。誰からもらったの」
「誰からでもねえよ。あれだよ。なんだっけな。会社の忘年会のビンゴゲームだよ」
「浮気相手でしょ」
「ちが…ちがうよ。浮気相手からもらったんじゃないよ」
「栄美さんとおっしゃいましたっけ?」
「誰だよそれ。ちがうよ馬鹿。浮気相手から、そら、もらったんじゃないよ」
「浮気相手からネクタイをもらったわけでは、ない」
「そうだよ。当たり前だろ。ビンゴゲームだよ」
「でも、浮気は、してる」
「してないよ! 浮気なんかしてないよ。してません。してないのです」
「栄美さんって方からしょっちゅう電話が掛かって来ますけど」
「そりゃウソだよ! だって俺、栄美なんて子知らないもん」
「栄美なんて子じゃなければ知ってる、と」
「どうしてそうなるかなぁ! ちがうってば。何を嫉妬してるんだよ」
「本当に浮気してらっしゃらないの」
「ああそうだよ。浮気なんかするもんか」
「しょっちゅう電話を掛けてくる若い子と浮気しているとばかり思ってましたが」
「ウソだろそれ。自宅の電話番号なんか教えてないもん」
「誰に自宅の電話番号なんか教えないんですか」
「だー! 誰にもだよ、誰にも!」
「で、このネクタイは誰にもらったんですか」
「え。だから。そのネクタイは、俺が自分で買ったんだよ」
「ビンゴゲームじゃなかったの」
「ああ、そうだよ。ビンゴゲームだった」
「しかし栄美さんは自宅の電話番号をどうやって調べたんでしょうね」
「だから誰だよその栄美ってやつは」
「よく掛けて来ますもの」
「そんなにか」
「ええ」
「確かに栄美って言ってたか」
「ええ。確か栄美でした。もしかして偽名かも知れないけど」
「偽名たどういうことだ」
「ほら、奥さんに浮気がばれないように、って」
「…」
「なんで黙ったの」
「え。いや、別に」
「なにか今考え込んだでしょ。やっぱり浮気してるんでしょ」
「してないよ。してないったら」
「…」
「なにその目。していません。断じてしていません。していませんよ。していませんったら…」
「今は?」
「はい。断じて」
「今はしてない?」
「今はしておりません」
「ちょっとはしてた?」
「ちょっとは、と、おっしゃいますと」
「昔に」
「昔に、ですか。昔のことは、ちょっと、記憶にございませんが」
「今のうちに白状するなら許したげてもいいけど」
「それは本当ですか?」
「ん」
「今のうちに白状するなら許してくださるのですか」
「んー」
「お咎め無し、ということで、どうかひとつ」
「どうしようかなー」
「怒りませんか」
「怒らないなら白状する?」
「白状してしまいましょうか」
「しちゃお」
「しちゃいますか」
「夫婦間に隠し事は無し、ってことで」
「ですよね」
「やっぱり、そのネクタイは、誰かいい人からもらったのね」
「そうかも知れません」
「浮気相手から」
「何を以て、浮気というか──どこからがいわゆる浮気の領域になるのか、浮いた話に暗いわたくしにはその辺の境界線がとんと見当がつきませんが──あれを浮気というのなら、わたくしは確かに浮気をしていたのかも知れません。いえ、その、当時」
「当時? どれくらい昔の話?」
「それは…。わたくしが産まれてからだいぶ経ったあとでして…」
「結婚した後? する前?」
「その辺は記憶が確かではありませんで…」
「この際ぜんぶ話しちゃおうよ~」
「話しちゃいましょうか」
「話しちゃお」
「後だった。かも知れません」
「そう。やっぱり。許せない」
「あ。ええと。あの」
「慰謝料を請求します」
「いささか約束と違うようで」
「問答無用。慰謝料を請求します」
「待って。待って下さい」
「何。この期に及んで」
「実は…」
 夫は手品師の手付きでネクタイの裏からネクタイピンを取り出す。
「ここにこうして、おまえからもらったネクタイピンがこうして、ちゃんとこうして、あったりして」
「あたしがあげた、ネクタイピン」
「そうさ。大事な妻からのプレゼント、忘れるわけないじゃないか」

(ぬりえ)
ここからは、よいこのみんなが、それぞれ、
おはなしをかんがえて、てきとうにうめてね。
ばんそうおにいちゃんとの、やくそく。
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」
「                 」




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