とりぶみ
実験小説の書評&実践
結婚スピーチ(とりぶみ版)   (2007/10/25)
 ただいま御紹介にあずかりました、わたくし、新婦金子さんの、えーと弟さんが、少年時代にですね、その、所属していたサッカーチームの、いわゆるひとつの監督ですね、その、現在はJリーグのあの、川崎フロンターレのですね、監督をしております、えー、関塚隆という人物と、その、なんと申しましょうか、あー、親戚関係にある、その、大塚です。非常にこう、その、遠い間柄ではございますが、なぜかお招きいただき、スピーチという大役を、えー、その、務めさせていただく運びとなりました。えー、本日はその、お日柄も良く、お足元の悪い中、ご成婚、まことにおめでとうございます。
 えー、ふたりを祝福する詩を書けと金子さんから半ば脅迫的に依頼されましたが、そんなエレジーなポエムなど書けるガラではありませんので、このスピーチをもってお祝いの言葉とさせていただきます。
 さて。間延びしたスピーチというものは、参列者から嫌われるものです。会社の上司あたりから延々とつまらない話──たとえば「○○くんはとても有能で」「将来有望で」「会社での働きぶりもまじめで」「本日はお日柄も良く」「結婚は航海のようなもので」「誠に」「荒波をふたりで」「困難に際しても力を合わせて」「誠に」「誠に」「幸せな家庭を」「おめでたく」「簡単ではございますが」「誠に」「etc...」「etc...」みたいな話をされると場のムードも白けてしまいます。ダラダラした退屈なスピーチはお祝いムードに水を差します。中国の古典にも「スピーチとスカートは短い方がいい」と書かれています。
 それではお待たせしました。前置きはこれくらいにして、本格的に祝辞の方、一発はじめさせていただきます。一発終えたあと夫婦そろってベッドの中で音読したりすれば良いと思います。ね。

 新郎の金夫さん・新婦の金子さん、とても有能で、本日は誠にお日柄も良く、誠におめでたく、結婚は航海のようなもので、誠に会社での働きぶりもまじめで、困難に際しても力を合わせて、誠に簡単ではございますが、将来有望です。ありがとうございました。
 わたくし、金夫さんとは今日が初対面でございますが、金子さんとは旧知の仲でして、そうですね、かれこれ十五年来のつきあいとなりましょうか。と申しましても十五年間十三万時間いっしょに時を過ごしたわけではなく、その間に空白の五年間があったりもしますが、とにかく思い出話などをさせていただこうと思います。それを聞いて新婦はなつかしい感興に浸ったり、新郎は相手の知られざる過去を知ってショックを受けたりですね、おのおの複雑な心境になれば良いのではないかと、こう思っております。
 私と金子さんの出会いは小学五年。LLなんたらという名の英会話塾でした。同じ小学校にかよってはおりましたが、まともにクチを聞いたのはその時が初めてだったと記憶しております。ふたりがその塾で得た成果は「ハワイユー」「アインファインセンキュウエンドュー?」「ソーソー」それから「おじさんを英語で言うとアンコー」だけでしたが、それはそれで良かったと思います。
 金子さんは、そのころはかわいくてですね、いえ、そのころからかわいくてですね、今もですね、かわいいわけですが、いや、なんというか、その、ね。あれですよ。まあ、今も昔も美人だったわけです。ですからまあ、クチを聞いたといってもですね、わたしのようなチンチクリンな男の子には手に負えないシロモノだったわけで。「こんなキレイな女の子と将来結婚する男はどれくらいカッコEんだろう?」と首をひねっておりましたが、その噂の男前がこちらの金夫さんだったわけです。予想通り、というか予想以上のハンサムだったので、お似合いのカップルだなぁと、ためいきが出る想いです。あまりにですね、こう、美男美女ですから、祝福する気が失せて嫉妬の気持ちでいっぱいです。
 (突如不機嫌になって)あのなぁ。あんたがた見てるとな、「末永くお幸せに」っていうセリフが馬鹿らしく思えて来るんだよ。俺みたいな男がな、「幸せに」なんて言ったところでな、説得力ねーんだよ。わかるかオイ。あんたらはな、こっちが黙っててもずっと幸せに決まってるんだよ。俺が幸せを祈ってもむなしいだけなんだよ。うっ、うっ、うらやましすぎるんだよぉ! このオシドリ夫婦!
 ……。
 はっ! と、取り乱しました。たいへん失礼いたしました。あの、その、なんというか、どうか末永くお幸せに…。月並みな祝福ですみません。
 何の話でしたっけ。ああ、英会話がどうたらでしたっけ? そうですよね。違ったかな? まあいいや。えーとですね、私と金子さんの出会いは小学五年でした。Lなんたらという名のですね──あれ、この話はしたかな? 例の山下事件の話も? ──ああ、しましたね。じゃあ、先に進みましょう。

 中学校三年間は同じクラスでした。でも、やっぱりあんまり話しませんでしたね。──そんなわたしがなぜこの席に呼ばれたのかますます疑問がわいてくるわけですが、人の幸せを祝うのは大好きなのでお招きいただき誠にありがとうございます。
 えー、中学校での金子さんとの思い出といえば、やはり、すまし汁事件にとどめを刺すでしょうか。コレ、新郎に読ませる前に新婦が事前チェックを行なった場合、検閲削除されてしまうかも知れませんが、いちおう書いておきます。
 すまし汁事件とは、たしか中学1年、家庭科の授業での出来事。わたくし大塚と、それから同じ班の伊藤くんは、授業に対して全くやる気がなかったため、料理には参加せず各班のすまし汁を食べ比べておりました。家庭科室ぶらりグルメ旅だったわけです。
 すまし汁というものは、元来それほど美味い物ではございません。大塚伊藤両料理評論家の肥えた舌を満足させるような逸品にはなかなか出会えませんでした。そんな中、「おい!これ飲んで見ろって!」ある班のすまし汁だけは、「どれどれ」二人の舌を驚かせました。
「うわっ。まじー!!」
「だろ!? やべーよな」
「まじーまじー」
 それが、金子さんの作ったすまし汁だったわけです。え、どんな味だったか、ですか? うーん。水道水を温めたような味、と言えば伝わりましょうか。とにかく、これまでの料理の常識を覆すような革新的な味だったわけです。
 この事件、わたくしと伊藤くんはすっかり忘れてしまったのですが、金子さんの心には評論家への怨恨が深く残ったらしく、成人してから叱られました(笑)。
 (再現VTR)
「家庭科の時間にさ、大塚と伊藤、他の班のすまし汁を散々けなしてたでしょ」
「記憶にございません」
「右に同じ。忘れた」
「自分たちは授業に参加せずにさ、味見、とか言って、他の班の料理を試食してた」
「あー。かすかに覚えてるわ」
「そういう事もあったかも知れません」
「で、私の班のすまし汁をマズイマズイって…」
「そういやダントツにまずい班があった気がするけど」
「あれ、おまえの班だったか」
「しかもあの時、すまし汁を担当していたのは私だったんだからぁ!」
「えっ。そうだったの」
「あれはおまえが作ったのか。わっはっは」
「すっごくショックだったんだからね!」
「金子が一人で作ったの?」
「うん」
「じゃあ、単独犯か。わっはっは」
「もーっ!」
 あー、えー、学生時代の友人に結婚式のスピーチを頼んだ際によく生じるトラブルが、新郎新婦の旧悪をさらけ出す暴露話です。「Kくんとはよく一緒に女湯を覗いたものです」だとか「あたしだけが知ってることだと思うけど、Mちゃんは学校帰りに万引きしてました」だとか。本人たちは場が盛り上がるだろうと思ってそういう話をするのですが、とんでもない、これは良くありませんね。会場中がドン引きです。
 わたくしがすまし汁事件について話したのは、ただ新婦の恥ずかしい過去を暴露しようとする目的ではございません。金子さんの美徳を讃えるための、言わばプロローグ。ここから先しばらくは、なんかちょっと恥ずかしいですが、金子さんを誉めてみようと思います。
 まず第一に、彼女は頑張り屋さんです。新郎もご存知だとは思いますが、その後の金子さんは料理教室にかよいました。あのー、えー、率直に書きます。料理教室にかよいはじめたことを聞いたとき、わたくしは軽い感動を覚えました。偉いと思います。えーと、そのー、金子さん。今まで黙っていましたが、本当に偉いと思うよ。あなたは「料理教室くらいで、おおげさな」と言うかも知れないけど、本気で感心したんです。いいや、料理だけじゃない。あなたは意外と(←失礼)頑張り屋さんでしたね。我々の知らない所でいっぱい努力していました。俺の性格上、面と向かっては恥ずかしくて絶対言えないセリフだけど、君は、すばらしい。すばらしいです。金夫さん、あなたの嫁さんはすばらしい。
 えー、それから、妙な所でやけに記憶力が良い。すまし汁以外にも、我々同級生が完全に忘れていた事を細かく憶えていたりします。まあ、これは美徳というか、注意が必要です。金夫さん、結婚記念日とか忘れちゃダメですよ?
 最後に、金子さんは天真爛漫ですね。あのー、「天真爛漫」という言葉の意味はよくわかりませんが、なんか天真爛漫な感じです。えー、さきほどの再現VTRを見てもらえればわかる通り、我々料理評論家は相当失礼なわけでして、夫たる金夫さんからしてみれば殴りたくなるほどの無礼者でしょうが、それでも金子さんは我々を許しているわけですね。事件発生から苦情申し入れまで十年近い年月を経ているわけです。相当気にしていたはずです。そのうえ、評論家どもは一貫して不遜な態度です。なのに、金子さんは本気では怒っていない。耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ。そうして笑顔。天真爛漫です。だと思います。言葉の意味は各自で調べて下さい。宿題です。
 えー、あのー、以上のごとくですね、すまし汁事件からうかがえる金子さんの人間性は、(ちょっと強引な結論でヤラセみたいですが)「お嫁さんとして最高」という事です。──ただし、あの時のすまし汁からどれくらい料理の腕を上げたのかは、ちょっとわたくしにはわかりません。金夫さんが美味しい料理を毎日食べられるよう祈っております。

 それでは最後に。
 金子さん。毎朝毎朝会社に遅刻しそうになって自転車で猛ダッシュしていたあなたが、まさかこんな美しい花嫁になるとは。本当にキレイだよ。うん。いいねいいねーその笑顔!
 金夫さん。このかわいい奥さんを大切にしてね。よろしくお願いします。いつまでもいつまでもふたり仲良く人生を歩んでいって下さい。
 それでは、楽しい結婚初夜を! バイバイ。




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