とりぶみ
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【小説】殺さんでするロサンゼルス観光⑫   (2017/08/12)
連載第12回
 車を改造する
 エコーパーク

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車を改造する
 ガレージでハチロクに乗り換え、すぐ近くの自動車修理工場にお邪魔した。ある程度の資金も貯まったし、愛車を個性的に改造し、町行く人が振り向くようなカッコイイ車、より自分好みのマシンに進化させようと企てたのだ。
 改造パーツのカタログを見せてもらった。車の走行性能を高めるパーツ(エンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンション、ターボ)から、主に車の外観を変えるパーツ(バンパー、ヘッドライト、グリル、ボンネット、ロールケージ、ルーフ、サイドスカート、リアスポイラー、マフラー、ナンバープレート、ボディーペイント、タイヤ、ホイール、ウィンドウカラー)まで、さまざまなカスタマイズパーツが取り揃えられていた。一般に、値段の高い物ほど高性能だった。
 その中に、「Shakotan Exhaust」という名前のマフラーがあった。これはいわゆる「竹槍マフラー」であり、シャコタンは世界共通語になっているのかと驚いた。整備士に訊くところによると、「Bousouzoku」という言葉も、「ジャパニーズストリートレーサー」を表す語として有名だそうだ。
 竹槍マフラーなんて、日本では田舎の珍走団しか装備しない。はっきり言って悪趣味でダサい。しかし、ここロサンゼルスでは、逆にクールなのではないか。とにかく目立つことは間違いない。俺は目立ちたかった。他の車とは際立った個性を獲得し、他のクソッタレどもから一目置かれたかった。
 俺はジャパニーズストリートレーサースタイルの、悪趣味全開な車にハチロクを変身させようと決意した。日本では乗るのが恥ずかしくなるような、コテコテの暴走族スタイルに。
 まず、竹槍マフラーを装着してもらった。ハチロクのリア底部から、2本のマフラーが空に目がけて勢い良く突き出した。ターボを搭載したのでときどき火を噴くようになった。
 サスペンションをいじってもらい、全体の車高を下げた。
 そして、バンパーをいわゆるシャコタン(車高短)、地面すれすれの低さに出っ張らせてもらった。フロントもリアも。おまけに、往年の走り屋アクセサリーである吊り革をリアバンパーにぶら下げた。
 サイドスカートも前後のバンパーに合わせて地面すれすれに垂らしてもらった。
 リアスポイラーは可能な限り大きな、F1レーシングカーのように仰々しいGTウイングを取り付けた。
 バンパー、サイドスカート、リアスポイラー。これらは本来、空気抵抗を低減させ、高速走行を安定させるためのパーツだが、俺が施した改造は単なるファッションだった。想像していた以上にビジュアルがBousouzokuになっただけで、空気力学的な効果があるとはとても思えなかった。
 ホイールは高級車用の物に交換。タイヤは特注品に履き替えた。このタイヤはパンクしない防弾仕様であり、なおかつトレッド面(接地部分)に赤色の粉を混ぜ、摩擦時に真っ赤なスモークが出るようにした特別仕様だ。
 この時点で俺はかなり満足した。愛車がいかつい表情になり、ロサンゼルス中どこを探しても見つけられないであろう個性を獲得できた。しかしカタログをペラペラめくっていると、ボディーペイントをクロームメッキ仕様に変更できることを発見した。これは車体全体をステンレスにしてしまうような魔改造であり、周辺景色を鏡のように映すギラギラとした銀色である。対向車はまぶしくて迷惑だろうなあ。悪趣味な車にするならば、とことんまで追求しなければ。俺はクロームメッキに強く惹かれた。が、整備士によれば、大金を積めば変更してもらえるという単純な話ではなく、それ相応の実力を伴ったドライバーしか変更してもらえないということだった。「それ相応の実力」とは、具体的にはストリートレースで通算50勝することだった。ストリートレースで50勝! かなりハードルの高い条件だが、達成のあかつきにはクロームメッキ仕様イコールストリートレースの覇者として、他のクソッタレが羨望のまなざしを向けるのは間違いない。同様に、もしスタントジャンプを数多くこなせば、ホイールの色をライムグリーンに塗装してくれるという。目のチカチカするような蛍光色であり、これも目立つこと間違いなしだ。
 ボディーペイントとホイールカラーは、いつの日にかギンギラギンにすることを夢見、現状を維持した。また、エンジン、ブレーキ、トランスミッションなど、走行性能に関する改造については、予算不足により見送った。
 最後に、クラクションを標準装備の警笛から、アメリカ国歌が流れるミュージカルホーンに取り換え、俺は修理工場から退出した。




エコーパーク
 ハンドル中央を押すたびに、ラッパの音が『星条旗』を派手に鳴らす。竹槍マフラーは軽い爆発音をさせながら閃光を発する。俺は嬉しくなって蛇行運転を繰り返した。過剰なまでのオーバーステアであり、サイドブレーキを引かなくても勝手に後輪が滑った。峠を攻める『頭文字D』のハチロクを気取ってドリフトしまくった。タイヤから赤い煙がモクモクと立ち籠め、道路が出血しているようだった。
 何度も一般車と衝突した。
 ハチロクはマフラーから火を噴きながら坂道を上り、ロサンゼルスでは比較的おとなしい地区に入った。
 この辺りには武器屋や自動車修理工場はないし、高台に位置していて交通には不便である。クソッタレどもの生活導線からは外れている。そのため、あまり騒がしい感じはしない。南米系の住民が多く、アート系の学生街のような雰囲気。住宅のほかに、店舗としてはブティック、雑貨屋、バー、ダイナーが多い。多くの場所で、塀や家の壁に美しい壁画を見ることが出来る。
 俺は偶然、美しい公園「エコーパーク」に到着した。周辺地域名の由来とも成っている公園であり、ここは、ユニークなビデオ制作で知られるロックバンド「OK GO」のミュージックビデオ『End Love』が撮影された場所でもある。このビデオの最大の特徴は、めまぐるしく再生速度が変わること。時に早送り、時にスローモーションになる。4倍速・8倍速・16倍速・64倍速は言うに及ばず、16分の1のスローモーションから17万倍速のタイムラプスまで、あらゆる再生スピードが、1本のビデオの中にぶち込まれている。
 ビデオで観た景色が目の前に出現し、俺は興奮した。
 公園の中央は池である。池を取り囲むように芝生が生えており、貸しボートの事務所が建っている。池にはボートが何艘か浮かび、水鳥が泳いでいる。芝生ではピクニックに来ている家族連れがレジャーシートを敷いてのんびりとした時間を過ごしている。そのそばで人によく慣れた野鳥が羽を休めている(『End Love』の後半では、野生のカモがまるでペットのようにバンドにまとわりつく。このカモは「マリア」と名付けられるが、のちにオスであることが判明して「マリオ」に改名された)。
 浮かれていた俺はハチロクに乗ったまま池に突っ込んだ。浅いと思ったのだ。軽率だった。ハチロクはエンジンを唸らせるが、深みにはまり、タイヤを空転させた。必死に脱出しようとしたがエンジン音は弱弱しくなり、やがて止まった。カーラジオも沈黙した。エンジンルームが水没したのだ。
 俺は仕方なくハチロクを乗り捨て、ザブザブ池の中を歩いて水から上がった。改造したばかりなのにさっそくダメにした。保険会社に連絡すると、「お客様ご自身の過失なので」ということで、修理費を取られることになった。
 ハチロクを修理に回している間の代用品として、俺は公園の駐車場に停まっていたスクーターを盗んだ。アクセルグリップを思いっ切り回しても、メーンという情けないエンジン音しかせず、BMXに毛の生えた程度のスピードしか出ない。それでも俺はこのスクーターが気に入り、低速運転で例の自動車修理工場に運び込み、ナンバープレートを付け替え、自分の愛機として登録した。



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