とりぶみ
実験小説の書評&実践
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【小説】殺さんでするロサンゼルス観光⑩   (2017/08/06)
連載第10回
 桟橋の下で取引を邪魔する

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桟橋の下で取引を邪魔する
 初めて(それとは知らず)裏稼業に身を投じたとき、俺はサングラスの男とドレッドヘアーの男と一緒に、ギャングの集団から包み紙を略奪し、色眼鏡をかけた黒人のデブに届けた。その、黒人のデブから、「下っ端でも出来る簡単な仕事」として、求人募集があった。サンタモニカ・ピアの橋桁の下で、暴走族とストリートギャングが、ドラッグの闇売買をするらしく、取引されるブツを奪って来いというものだった。
 やりとげる自信が、まったくない。
 個人的にはビル清掃とかピザの宅配とかセレブの犬の散歩などをしたいのだが、俺に与えられた求人情報はこれしかなかった。英語をまともに話せない俺に、まともな仕事は、ない。
 割に合う仕事ではある。命を危険にさらすことになるが、多少死んでも俺の体は大丈夫みたいだし、カタギの仕事より短時間で高収入が見込める。なかなか1位になれないストリートレースよりも確実だ。
 少し迷ったが、この仕事を請け負ってみることにした。「下っ端でも出来る簡単な仕事」とのことだから、連中は銃を所持していないのかも知れない。
 近くを通りがかった手ごろなコンパクトカーを拝借した。目的地をカーナビにセットするとルートが表示された。俺はコンパクトカーのアクセルを目いっぱい踏み込んだ。特に急ぐ必要もなかったが、最高速を目指し、サンタモニカ大通りをひたすら西へ走り始めた。
 途中何度か事故りながらサンタモニカ・ビーチに辿り着いた。ハリウッド同様、ここもロサンゼルスに来たなら必ず訪れたい観光地だ。しかし今回はビジネスでの訪問なので、ブラブラするのは次回におあずけだ。
 カーナビは案内を終了したが、俺はコンパクトカーに乗ったまま砂浜に突入した。ビーチバレーを楽しんでいる人たちから悲鳴が上がった。サイクリングやジョギングの最中だった人は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
 行楽客のパニックは気にせず、俺は波打ち際近く、桟橋の橋脚近くに車を停めた(ちなみにサンタモニカ・ピアの「ピア」とは桟橋という意味である)。極力足音を立てないように走り、取引場所である橋桁下のトンネルへと向かう。この陰気なトンネルは、桟橋を階段で乗り越えたり迂回したりしなくても、向こう側へ通り抜けられるようにするための通路だ。
 壁に背をつけ、そっとトンネル内部を覗く。いた。チョッパーハンドルのアメリカンバイクや、真っ黒いマット塗料のワゴン車が数台停まっており、革ジャンを着た男たちとストリートギャングたちが、何か談合をしている。内部は薄暗い上に柱が何本も立っているので敵の正確な人数は把握できない。これ、本当に勝てるの? こっちは一人だし、ピストルしか持ってないし。あちら様が10人以上いて、それぞれマシンガンや自動小銃を装備していたら、絶対に負けるだろう。俺は突入をためらった。
 そうっと近寄って、ドラッグだけくすね取るのはいかがか。いいや、透明人間でない限り無理だろう。では、売買が成立したあと、ドラッグを所持している方の集団を尾行して、少人数になったところを奇襲するというのは? いいや、どちらが売人なのか暗くてわからないし、取り逃すリスクが大きすぎる。
 こうしていても埒が開かない。彼らからドラッグを強奪し、色眼鏡をかけた黒人のデブに届けねば、いつまで経っても仕事は終わらないのだ。それに、この仕事が不首尾に終われば、今後ほかの仕事を受注するのにも影響が出るだろう。やるしかない。
「徒手空拳で戦車と戦うよりはマシだろう」と自分に言い聞かせ、絶対に弾丸を命中させられる位置までにじり寄った。俺は上達した銃の腕前を遺憾なく発揮し、素早く2人、ヘッドショットで始末した。
 これが俺にとって初めての殺人だった。何人か交通事故で死なせてるかも知れないが、ちゃんとした意思を持って人を殺したのは初めてだった。しかし、不思議と罪悪感は芽生えなかった。ギャングどもが、自由意思を持たないデク人形に思えたからだ。ロボットを壊したような感覚だった。
 彼らは慌てて銃を抜き、応戦した。何挺もの銃が火を吹いた。そのうち1人はショットガンを所持していた。勝てる希望が一気に薄れた。あの散弾を浴びたら、浴びた場所がグチャグチャに削り取られ、即座に死ねる。俺は柱に隠れ、祈る気持ちでじっとした。弾丸が通過していく軌跡が見えた。
 業を煮やしたのか、スキンヘッドの男がナイフを振りかざして駆け寄って来た。ノーガード戦法すぎる。俺は落ち着いてヘッドショットした。ラッキー。
 やはり「下っ端でも出来る簡単な仕事」の看板に偽りはないのかも知れない。彼らの動きは、シロウトの俺以下だった。あのレトロプロダクトなら5秒で全滅させられるだろう。俺にも出来る。焦らず、1人ずつ殺すんだ。
 キレのある動きで俺は柱から飛び出し、最も近くにいた男を撃った。浅い。ヘッドショットならず、肩を貫いた。汚いタンクトップを着たその男は、苦し紛れにショットガンを発砲した。ショットガンの弾は拡散する。それは俺の上半身にまぐれ当たりした。ごっそりと大胸筋がえぐられ、アゴも削り取られた。顔の大半が無事だったのは喜ばしいことだったが、俺は死んだ。
 ビーチバレーのコートに復活した俺は、急いでトンネルに戻る。壁に背をつけ、チャンスを待つ。目標に対して多少遠距離であり、命中率も下がるが、この位置から撃った方が安全ではある。LAガンクラブで特訓した成果により、射撃技術はこちらの方が一枚も二枚も上手だ。命中率が下がったとて、相手の命中率はもっと下がるはず。距離が離れているほど相手よりも圧倒的なアドバンテージとなる。敵の弾はそうそう当たりはしないだろうし、当たったところで先ほどのような致命傷にはならないはずだ。こちらは壁に隠れているが、あちらはワゴン車や細い柱に隠れるしかなく、遮蔽物の大きさでもこちらに利がある。この勝負、いける。
 俺は丁寧に一人ずつ始末した。何発か被弾したが、命に別状はなかった。やがて敵が一人だけ残ったとき、相手がリロードをしている隙をついて特攻、走りながら敵の腹めがけてありったけの弾をねじ込んでやった。
 死屍累々ギャングや暴走族が横たわる中、お目当てのブツを拾い、ついでにショットガンも入手した。アメリカンバイクにまたがり、サンタモニカビーチを後にした。
 図体のでかいバイクはハンドリングが難しく、俺は何度かカーブを曲がり切れずに転倒事故を起こした。それでも、どうにかこうにか、色眼鏡をかけた黒人のデブのアパートに到着した。ブレーキのタイミングをミスし、塀に突っ込んでバイクから転げ落ちた。
 呼び鈴を押すと前回同様デブがゆっくりと顔を出し、無言でブツを受け取り、「OK。クール」とだけ言って報酬を支払ってくれた。



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