とりぶみ
実験小説の書評&実践
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【小説】殺さんでするロサンゼルス観光⑥   (2017/07/25)
連載第6回
 ストリートレース
 ガレージを購入する

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回




ストリートレース
 周囲数百メートル、まったく人の気配がしない砂漠。スマホを取り出し位置情報を確認する。建造物どころかまともな道路もない。そこで保険会社に連絡し、慣れない英語で、愛車ハチロクの代車を届けてくれるよう請求した。するとオペレーターから「保険金は支払われているが、ガレージに納車するのでガレージの住所を教えてほしい」と言われた。つまり、ガレージを購入するか借りなければ、愛車ハチロクと再会することは出来ないというわけだ。俺は落ち込んだ声で代車依頼を取りやめ、砂漠に立ち尽くした。
 とにかく、車がないと話にならない。そのためにはガレージを保有していなければならない。仕事をしなくては。
 ここロサンゼルスにおいて、俺のような男でも出来る仕事と言えば、きな臭い裏稼業しかなかった。裏稼業をまっとうにこなすには、銃器の類が必須だった。
 連射できる銃が欲しい。ピストルは発射間隔が長すぎる。1発ずつしか撃てず、マシンガンに太刀打ちできるはずがない。火力の強い銃さえ持っていれば、俺だってあのクソパイロットに一矢を報いることも出来たはずだ。しかし銃を買うにも金が要る。金だ。とにかく金だ。外国人の俺がここロサンゼルスでのし上がっていくには、何よりも金が必要である。
 手っ取り早く金を得るには各所のコンビニを襲えば良さそうだ。だが、リスクが高いし、1軒や2軒強盗したところで、ガレージや武器を購入できるほど莫大な金額が手に入るとは思えない。
 車をかっぱらって中古車ディーラーに流すという手もある。しかしながら闇市場では、警察の目を気にしてか、盗難車の連続売買を控える傾向にあるという。短期間で大きな利益を上げるにはあまり適していない。
 運転にだけは自信がある。賞金の出る非合法のストリートレースに出場しようと思った。
 裏サイトでストリートレースを検索した。現在地から近場であり、なおかつ、車両をレンタルしてくれるレースに的を絞って探す。
 刑務所敷地の外周をぐるぐる3周するレースを見つけた。複雑な経路を覚える必要もなく、アクセルワークとハンドルさばき次第で俺にも勝てそうだった。
 砂にまみれた車道まで自力で歩き、最初に通りがかったバギーを強奪し、レース会場となる刑務所に向かった。少額の参加費を払い、使用するスポーツカーを選び、スタート地点に待機した。
 出場選手は全部で6人。自前のカスタムカーは禁止で、全員が主催者側の用意した車に乗った。
 レーススタートへのカウントダウンが始まる。みな、エンジンを空ぶかししたりクラクションを鳴らしたり、闘争心むきだしだ。
 3、2,1……。Go!
 各車一斉にスタート。俺は良いスタートを切ることが出来、まずは3位につけた。6台は団子状となって最初のカーブに突入する。車の性能差は僅少であり、わずかなハンドル操作ミスで取り返しのつかないことになる。集中しなければ。
 カーブに差し掛かる。トップを走る車がほんの少し減速し、俺も心持ちアクセルをゆるめた。だが、2位の車はスピードを全く落とさなかった。それが命取りであり、2位は横Gに負けてアウトコースに逸れた。俺はアウトインアウトのライン取りによってインコースから2位を抜き去った。
 バックミラーに映る後続車も軒並みコーナリングが下手だった。スローイン・ファストアウトの原則を知らず、アクセルはベタ踏みにしていれば良いと思っている。4位の白い車に至っては、順位を上げようと焦ったのだろう、テールを滑らせ豪快にスピンした。
 刑務所の周囲を右回りでグルグルと回る。最初は団子状だった6台はバラバラにほぐれ、もはや俺とトップとの一騎打ち状態だった。トップを走る車はまるで自動運転のように完璧なライン取りであり、全くミスをしなかった。俺も必死に食らいついていくが、彼のタイヤの痕跡をなぞるような走りであり、車の性能差もないため距離は全く縮まない。後発の電車が先行する電車を追い抜けないのと同様、どうやっても前に出られる気がしない。
 このまま2位でゴールしても賞金は出るが、1位のそれと比べるべくもなく、俺は1位になりたいと切に願った。
 残り1周。このままの順位でレースは終了してしまうかと思われた矢先。前方から、1台の車が逆走して来るのが見えた。それはレース序盤の4位、豪快にスピンをして周回遅れとなった白い車だった。彼はレースを放棄し、他のレーサーを妨害しようと待ち構えていたのだ。
 トップの車は避けようとしたが、白い車の狙いすました突進により、衝突、コース外に弾き飛ばされた。代わりに俺がトップに浮上した。棚からボタ餅、俺は1着でゴールインした。お立ち台で思いっきり腰ふりダンスをしてやった。




ガレージを購入する
 その後、俺はストリートレースへの出場を繰り返した。命に関わらない安全な金稼ぎの方策であったから。
 ただし、どんなストリートレースにおいても1着でゴールするのは容易ではなかった。市街地でのレースは一般車両も普通に通行しているため、運の要素が絡んだ。そもそもマナー知らずのクソッタレどもが出場しているので、スタートからぶっちぎり1位を独走していても、コース途中やゴール寸前で待ち伏せをされ、あの手この手で妨害された。
 一般車両を排除した公道貸し切りレースでは、プロレーサー並の強者どもが多数参加しているので、運が絡まない限りどうしたって勝てなかった。いわゆる「初見殺し」のコースは、通過すべきチェックポイントが新参ドライバーにはわかりにくく、何度もそのコースを走破しているベテランにはとてもじゃないが太刀打ちできなかった。誤ってカスタムカー使用可能なレースにエントリーしてしまった時は、長距離のコースを走り屋たちと競走する羽目になり、まったく歯が立たなかったため途中でリタイヤした。
 1着でなくては勝利として認められず、たとえ2着でゴール出来ても勝利数にはカウントされなかった。俺は徐々に負け込んでいった。それは他のレーサーも同様だった。レースエントリー時に対戦相手の戦績を見ても、勝ち越している者は1人も居なかった。プロレーサーのような経歴の選手であっても、勝利数と敗北数はトントンだった。中には100戦もしてたった2勝しか出来てない哀れな選手もいた。
 負けレースを重ねるうち、俺はうんざりしてきた。この状況をなんとか打破しなければ。
 必勝法を思いついた。少し卑怯だが、初心者を初見殺しのレースに誘い、一騎打ちすれば良いのだ。
 都市部からかなり離れた田舎に、田舎道をバイクで走るレースがある。総距離は短いが、舗装されてない細い道を走る上に、途中で牧場の敷地内を通過するので、コースが非常に解りにくい。俺も最初は「簡単なコースだよ」とだまされて出走した。後塵を拝するどころか、レースが始まって早々牧場の柵に激突して転倒し、その後は相手の巻き上げる砂埃すら目にすることなく、大差で敗北した。
 レースにエントリーするとき、相手の運転技術が未熟と見れば、必ずこのコースに勧誘した。相手は初出場である。一方、俺は何度もこのレースを経験しており、道順も完璧に把握している。出走前から勝敗はおのずと明らかだった。彼らはたいてい、牧場敷地内に進入する直前のチェックポイントで、巻き返し不可能なほどの致命的なミスをした。俺がクラッシュした柵と全く同じ柵ですっ転んだり、曲がらねばならないコーナーを通り過ぎても気付かずに直進し続けたりした。
 レース後、相手がむきになって「もう1回!」とせがむものなら占めたもの。プラス1勝は保証されたようなものだった。
 俺はこの作戦で15勝はした。せこいしみっともない遣り口だったが、勝利数を稼ぐためには仕方がなかった。
 そうこうするうちに俺の運転技術は徐々に向上し、市街地でのレースでも自力で1位になる回数が増えてきた。寝食を忘れてストリートレースに出場しまくった。賞金を地道に積み上げていった。そしてついに、念願のガレージを購入する資金が貯まった。
 俺はスマホから不動産のサイトにアクセスし、最安値のガレージを検索した。あまり田舎だと不便なので、ロサンゼルス市内に限定した。あった。市の中心部からは少し外れるものの、一応都市部。収容可能台数は2台。買うぞ。ここを買うぞ!
 慣れない英語に戸惑いながら、クレジットカードで決済をした。残金はほとんど残らなかった。契約書などの書類とガレージの鍵が届いた。タクシーを拾い、書類に書かれた番地や地図を示してガレージまで連れていってもらった。降車する時はちゃんとタクシー代を払った。
 そこは初めて利用した自動車修理工場(盗んだハチロクのボディーペイントとナンバープレートを変えた工場)のすぐ近くで、人通りは少なく、ロサンゼルスらしくない、とても陰気な地区だった。ガレージが建っていたのはやはり高速道路のガード下で、終日、陽の差さない日陰だった。すぐそばにスケートパークがあり、地元のギャングがスケートボードを滑らせたりするのだろう。値段相応のガレージだった。鍵を開け中に入ってみると、ほこり臭く、古びた工具が放置されている。ネズミの巣のような車庫だったが、こんな場所でも俺の物だ。俺の不動産だ。俺はストリートレース連続出場の苦労を偲んだ。
 さっそく保険会社に連絡し、愛車ハチロクを運送してもらった。ハチロクは生まれ変わったようにピカピカだった。そして、日給50ドルで専属の整備士を雇った。愛車のメンテナンスの他、電話1本で俺の元へ車を配車してもらう契約を結んだ。



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