とりぶみ
実験小説の書評&実践
【小説】殺さんでするロサンゼルス観光⑤   (2017/03/30)
連載第5回
 レトロプロダクトがヘリを落とす
 初めての戦闘

(※ キリが良いので今回で連載は中断する予定です)




レトロプロダクトがヘリを落とす
 まさかいきなり飛び降りるとは思わなかった。俺を殺すためにああいう行動に出たのだろうか。そうは思いたくない。殺すつもりならとっくに銃弾を食わせていただろうし、飛行機にも乗せてくれてないはずだ。もう会えないかも知れないが、あいつらはいいやつらだった。俺が彼らの狂った遊びについていけなかっただけだ。
 ゆっくりと辺りを見回す。田舎道。街路樹もなく、道路以外の地面は未舗装の、荒野のような場所だった。交通量も少なく、貧乏くさい車ばかりだった。たまにトラクターが通る。それくらいののどかな僻地だ。遠くで旅客機の残骸が火山のように燃えている。
 タクシーやバスも通らないので、しかたなく、通りがかったピックアップトラックから農夫を引きずり下ろし、急場しのぎの足とした。
 20分ほど運転していると、行く手に大きな看板が見えてきた。数件の店が立ち並んでいて、ちょっと立ち寄ることにした。ダイニング、ガソリンスタンド、ドラッグストア、コンビニ、服屋、ペットショップ。まずは服屋のガラス戸を押した。
 Tシャツ、ズボン、靴、帽子。いろいろ試着したのち、グレイのワイシャツ、キャンパス・ブルーのスーツ上下と、黒いネクタイ、黒の革靴、フェドーラ帽を買った。鏡の前で整った身なりにうっとりしていると、突然、遠くで爆発音が聞こえた。その音は徐々に近づいてくるように思えた。店の外では悲鳴も上がっている。俺も外に出て、音の出どころを探った。トラック運転手や地元の酪農家が上空を指さして何かわめいている。
 ヘリコプターが飛んでいた。ミサイルを地上に向けて発射していた。軍事演習だろうか。はたまたテロリストを追っているのか。ああ、そういえば近くに刑務所がある。脱獄囚を狙っているのかも知れない。
 一定の間隔で発射されるミサイルはほとんどが地面に着弾し、時には道路を走行中の車に直撃した。タンクローリーが映画さながらに大爆発した。歩行者はパニック状態となって逃げ惑い、建物の中に避難したり、慌てて車でその場を離れたりした。
 俺だけはぼんやりと空を見上げたまま、ヘリコプターのかっこよさに見とれていた。そのうちようやく気が付いた。着弾点が段々と俺に近づきつつあるのを。俺を狙っているのだ。ヘリは人間に対する自動追尾機能は保持していないらしく、ふらふらと揺れながら、どうにかして俺を木端微塵にしようとたくらんでるようである。
 あんな戦闘ヘリにも命を狙われるのか。やれやれ。治安が悪いってレベルではない。暗黒社会の大物ならまだしも、こんな駆け出しの犯罪者を相手にして何の得があるのだろう。しかも圧倒的な戦闘力差。卑怯だ。
 何発かピストルを撃ってみた。届くはずがない。あちらのミサイルもなかなか当たらないが、徐々に精度を増してきている。ヘリコプターは少し高度を下げ、機体を安定させた。ミサイルが俺に直撃するのは時間の問題だ。
 どうしたものかと考えあぐねていると、急にヘリコプターはバランスを崩し、墜落し、地上で爆発、炎上した。はっと気づくと、白いコートに白いテンガロンハット、スナイパーライフルを構えたレトロプロダクトが真横にいた。恐るべき精密射撃で彼がパイロットを撃ち抜いたのだ。
 俺は目をきらきらさせ、彼に敬礼した。彼も軽く敬礼を返し、スナイパーライフルをカービンライフルに持ち替えて走り出した。どこに向かうのか。俺も後を追った。




初めての戦闘
 草すらまともに生えていない乾燥地帯。向こうから砂塵を散らしながら一人の男がジグザグに走ってきた。俺を殺そうとしたパイロットだった。俺&レトロプロダクト組vsパイロット。2対1のデスマッチが始まった。鳴り響く3種類の発砲音。さながら現代音楽のような不協和音。レトロプロダクトのライフルと敵パイロットのマシンガンは持続音を奏でる弦楽器のようで、俺のピストルは断続的に破裂音を差し挟む打楽器のようだった。
 パイロットは、フライングスーツに身を包んでいるとは思えない俊敏な動きで、俺たち2人を相手にした。レトロプロダクトに弾幕を張る一方、後転して退きながら俺の方に銃弾を浴びせることも忘れない。レトロプロダクトがカービンライフルを掃射し、パイロットに深手を負わせるその間に、俺はパイロットのマシンガンの餌食になった。俺とパイロットはほぼ同時に死んだ。
 レトロプロダクトを中心に挟んで、俺とパイロットは別々の場所に離れて復活した。無傷の状態に戻ったパイロットは、瀕死のレトロプロダクトをすぐさま強襲し、力任せに撃ち合いを制した。レトロプロダクトは全身から血を噴き出しながら地面に倒れ、絶命した。憧れの人を殺された俺は逆上し、鬨の声を挙げながらパイロットに急接近した。走りながら発砲し、何発か当てた。パイロットは地面をローリングして俺の銃弾を交わしつつ、起き上がりざま体勢をこちらに向けると、マシンガンの掃射で俺の全身を正確に撃ち抜いた。俺は死んだ。
 俺が蘇ると、ちょうどレトロプロダクトがパイロットを始末する場面が目に入った。俺はレトロプロダクトに駆け寄り、両手の親指を立てて武勲を讃えた。レトロプロダクトはそれには応えず、敵に対して優位な位置に立つため足を止めることがなかった。
 パイロットは俺の背後に復活し、容赦なく背中から銃弾を浴びせた。俺は死んだ。そして右に左に側転しながらレトロプロダクトと熾烈な銃撃戦を繰り広げた。
 敵もさる者、レトロプロダクトとパイロットの腕は拮抗しており、一進一退を繰り返しながら、ほぼ同じ回数の死を相手に与え合った。俺の死だけが倍の速度で重ねられ、彼らの死の総和と同程度にカウントされていく。俺は1度もパイロットを仕留めることができなかった。もう少しで殺せそうなケースもあったが、その時はレトロプロダクトがとどめを刺した。2対1ではあったが、実際にはプロの殺し屋とプロの殺し屋のタイマン勝負であり、時々そこにシロウトの俺が茶々を入れる、という構図だった。
 レトロプロダクトは10回以上パイロットを殺し、10回以上死んだ。パイロットもまた、10回以上レトロプロダクトを殺し、10回以上死んだ。俺だけが20回以上死んだ。
 長期戦になって段々と、レトロプロダクトの方が優勢となった。ガンマンとしてわずかに上だったし、それに、パイロットが俺を抹殺している一瞬の間に、レトロプロダクトがパイロットを始末するというケースが何度かあり、殺害回数に少しずつ差が開き始めた。
 やがて、何十回にも及ぶ攻防を経て、やっとのことでパイロットを退けた。パイロットは車などで逃走したわけではなく、何の痕跡も残さず地上から消え去った。
 俺はレトロプロダクトに力いっぱい敬礼をした。彼もようやく戦闘態勢を解除し、優しく、それはそれは優しく、俺に敬礼を返した。砂漠の空はすっかり深紫色に沈んでおり、辺りには俺たちしかいなかった。風の音しか聞こえなかった。頭上に瞬く星が、俺たちの勝利を祝福していた。
 このとき、俺とレトロプロダクトは義兄弟の契りを結んだ。後で知ったことだが、彼はアメリカ人ではなく、インド人だった。日本人の俺を、同じ境遇の存在として気遣ってくれたのかも知れない。
 これを書いている今となってはもう、2度と会う機会はない。だが、ロサンゼルス滞在中の恩人として、決して忘れることは出来ない。向こうが俺のことを忘れても、ずっと──
 義兄弟の契りを結んだあと、レトロプロダクトは右手を振って別れの合図をした。俺もひらひらと手を振り返した。レトロプロダクトの肉体は煙のように霧散した。




 アクセス数は伸びているが、この連載が実際に読まれているのか謎だ。
 この辺までが一番おもしろいエピソードであり、ちょうどキリも良いので一旦更新を停止します。
 リクエストあればとりあえず16回までは載せます。中途半端なところで筆が止まってますが。



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