とりぶみ
実験小説の書評&実践
プロフィール

  • 執筆陣紹介

    大塚晩霜
    原作/草稿担当。

    大塚晩霜
    推敲/編集担当。

    大塚晩霜
    昼寝担当。



過去記事



最新記事



最新コメント



RSSフィード



検索フォーム



リンク



【小説】殺さんでするロサンゼルス観光④   (2017/03/27)
連載第4回
 レトロプロダクト
 6輪ベンツ
 旅客機に乗る




レトロプロダクト
 間近で見るテンガロンハットはミラーサングラスの下に精悍な顔立ちを隠していた。コードネームは「レトロプロダクト」。ロサンゼルスの犯罪者には裏稼業の実績に応じたランク付けがあるが、彼はランク100を超えていた。
 レトロプロダクトの運転する漆黒のスーパーカーと、コーンロウの運転する深紅のスーパーカーは、追跡するパトカーを軽々とぶっちぎり、先回りした応援のパトカーも難なくかわした。急な坂道を一気に上り、頂上で宙に飛び出した。浮かび上がる車体。空中で姿勢を制御し、華麗に着地する。時速200キロメートル近く出ていたが、超一流のドライビングテクニックで滑るように走った。
 警察の追跡はしつこかった。追いすがりながら発砲もしてきた。上空からはヘリコプターが俺たちの逃走を阻止しようと試みる。狙撃手のマシンガンによって、光の雨が地上に降り注ぐ。ただしこのスーパーカーは背面が防弾仕様になっており、たとえ被弾しても乗員には何のダメージもなかった。レトロプロダクトは右手でハンドルを握り、左手のサブマシンガンを窓から後方に向けて連射した。1台のパトカーが突然コントロールをうしなったように路肩に突き刺さった。運転手を射殺したのだ。驚愕すべき腕前だった。俺も何もしないわけにいかず、窓から上半身を乗り出して後方にピストルを乱射した。何発かパトカーのフロント部分に着弾したが、無意味だった。あんなに射撃訓練したのに。逆に、警察の弾が腕に当たった。痛かったので助手席に引っ込んだ。コーンロウの運転するスポーツカーからは手榴弾が的確なタイミングで投下され、後続のパトカーや一般車両を次々に爆発させていた。
 2台のスーパーカーは山を登り始めた。山道ではない、山をだ。平坦な舗装道路専門のスーパーカーのくせに、オフロード車よりも高い登坂性能でグイグイと、崖に近い急斜面を上がっていく。当然パトカーは追ってこられない。唯一追跡を継続していたヘリコプターは、車から一旦降りたコーンロウが、ロケットランチャー1発で始末した。
 豚マスクがどこかに電話をした。指名手配の解除を依頼しているようだった。電話を終えた彼は親指をビシッと立てた。
 今度はコーンロウがどこかに電話をした。部下に車を配達するよう依頼しているようだった。ほどなくして、見たことも聞いたこともない6輪のベンツが配車された。




6輪ベンツ
 6輪ベンツはセダンではなく4人乗りのトラックだった。コーンロウが運転席、レトロプロダクトが助手席、豚マスクが後部座席にそれぞれ乗り込んだ。俺も乗っていいのか躊躇していると、優しくクラクションが鳴らされた。乗れという合図だった。俺は喜々として豚マスクの隣に座った。スーパーカーは2人乗り。4人で行動するのには不向きなので乗り換えたのだろう。6輪ベンツはパワフルな馬力で岩肌を走破し、谷合の高速道路をトラックとは思えない速度で走り始めた。ターボを搭載しているらしく、時折プシュプシュと音がした。
 猛スピードでドライブする中、各自GPSマップを眺めている。何だろうと思っていたら、豚マスクが無言で俺のスマホを取り上げ、何かのアプリをダウンロードした。すると、GPSマップ上に4つの丸が表示されるようになった。このアプリは俺たちのような犯罪者の位置情報を表示するアプリだった。
 遥か彼方にサービスエリアが見える。レーダー上では、そのサービスエリアに丸が2つ。つまり、俺たちのような者が2人いる。6輪ベンツはサービスエリアに向かって一直線に爆走した。
 スロープを上がると、ガソリンスタンドの近くに、サブマシンガンをこちらに向けて臨戦態勢を取る2人組がいた。一触即発の雰囲気。豚マスクが6輪ベンツを降りた。殺るか殺られるかが基本のロサンゼルス、お決まり通りドンパチが始まるのかと思いきや、豚マスクは丸腰で2人組に近づき、例の腰ふりダンスを披露した。2人組は銃を下ろして豚マスクを見守った。
 コーンロウがクラクションを鳴らした。豚マスクが戻ってきて、2人組も警戒しながらそれに続いた。豚マスクはさっきまで座っていた後部座席ではなく、荷台にのぼった。え、そこ乗れるの? 2人組は少し尻込みをしていたが、やがて1人が後部座席に、もう1人が荷台に座った。俺は初対面のギャング5人と、あいさつもろくにせず、同道の仲となった。
 6輪ベンツは速度を抑えて高速道路を走った。速度を抑えたのは、荷台に人が乗っているからだ。とは言え、先行する車両をびゅんびゅん追い抜いていく。荷台の2人はピストルを横に寝かせて構え、周囲の車をおどかしている。銃口を向けておどすだけでは飽き足らず、発砲もした。
 レトロプロダクトが反対車線に向けてサブマシンガンを乱射した。俺もピストルを撃った。みんな空に向けてそれぞれのリズムで発射した。パレードでクラッカーを鳴らしている気分だった。
 前方を走っているトレーラーが驚いて、ハンドルを制御できず左右にケツを振り始めた。6輪ベンツはコンテナに接触して高速道路を外れ、ガードレールの外に飛び出した。眼下は、10メートルもあろうかという、谷。空中に放り出された瞬間は、時間が制止したようだった。地面まで5メートル、4メートル、3……。
 激しい衝撃。地面に叩きつけられた6輪ベンツは何度も横転し、地面の傾斜も相まって、落下地点から100メートルほど下った場所でようやく停止した。荷台の2人は途中で投げ出された。死んだな、と思った。しかし2人はすぐ起き上がり、全力ダッシュで駆けてくる。コーンロウは車をその場に待機させ、2人の帰還を待った。俺はいったん降車し、荷台によじ登った。乗ってみたかったのだ。
 悪乗りしたコーンロウが、ほぼ垂直に切り立った崖を上り始めた。ダメだった。岩の出っ張りに引っかかって6輪ベンツはいったん裏返しになり、俺と豚マスクは荷台から転げ落ちた。6人が6人とも爆笑した。




旅客機に乗る
 車は再び高速道路を激走する。俺と豚マスクは荷台でけたたましく笑いながら、エアギターを弾いたりエアDJをしたり、突き出した両腕を前後にピストンしたりした。やがてダウンタウンに差し掛かると、レーダーに丸が表示された。誰か近づいてくる。
 次の交差点、右方向から、緑のマッスルカーが飛び出してきた。メロディアスなクラクションを鳴らしながら、6輪ベンツに近づいてきた。一緒に走ろうという意思表示なのか、あおっているのか、それは判別できなかった。だが、車をぶつけてきたり銃を撃ったりしてこないので敵意は無さそうだった。
 俺は同乗の5人を、「ならず者ではあるが、良い人たち」だと思っていた。無法地帯のロサンゼルスにおいては、他人すなわち敵である。それなのに、面識のない俺を友人のように扱ってくれたし、現在進行形で楽しい思いをさせてもらっている。だから、新しく出没したならず者に対しても友好的な態度を見せるものだと、漠然と考えていた。でも違った。
 俺以外の5人が一斉に銃弾を浴びせたため、マッスルカーの運転手は一瞬で絶命した。力なくよたよたと減速するマッスルカーを、俺は荷台から見送った。
 6輪ベンツは走る要塞だった。誰にも止められなかっただろうし、警察だってビビッて寄ってこなかった。
 高速道路をひた走ると、クモ型巨大ロボットのような建造物(一見すると管制塔のようだが、実際は「エンカウンター」という名のレストラン)が見えて来た。ロサンゼルス国際空港だ。飛行機にでも乗るのだろうか。お金がないぞ。旅費不足を心配していると、6輪ベンツは関係車両の通用口で一旦停止した。守衛が自動ゲートをひらく。簡単に滑走路に入れてしまった。5人のうちの誰かが、プライベートジェットもしくは格納庫あるいはその両方を保有しているようだった。
 格納庫のひとつに進入し、小型旅客機のすぐそばに停車。6輪ベンツは乗り捨てられた。ここに駐車してしまって良いのだろうか。レトロプロダクトが旅客機に搭乗し、他の連中もどやどやと乗り込む。もちろん俺も続く。
 法律違反を屁とも思わない連中が、お行儀よく着席してシートベルトをがっちり締めた。まともじゃない相当危ないフライトになる予感がした。俺も自分の体をシートベルトできつく座席に固定した。
 専属の機長などは不在で、レトロプロダクトが操縦桿を握った。「まさか飛行機も運転できるのか」といぶかしがっていると、旅客機は滑走路へと移動を始め、管制塔とたいして交信もしないまま急加速を始めた。そしてそのまま離陸した。むちゃくちゃだ。
 眼下に広がるロサンゼルスは、それはそれは美しかった。長大なビーチに打ち寄せる太平洋の波は、西海岸の豊潤な陽の光を浴び、十重二十重の織物となってきらめいている。サンタモニカ・ピアのジェットコースターや観覧車も見えたし、なんなら旅客機はそのすれすれを低空飛行した。ビバリーヒルズ上空でバレルロールをしたり、ダウンタウンの高層ビル群の隙間をナイフエッジ(機体を90度に傾けた状態)ですり抜けたり、旅客機でそれやっていいのと驚かざるを得ないアクロバット飛行の連続だった。背面飛行だけはしなかったが。墜落するので。
 俺はレトロプロダクトに「あんた最高だ!」と叫んだ。彼は操縦中だったので簡便に「どうも」とだけ返事した。だがあきらかに嬉しそうだった。
 有名なハリウッドサインが間近に見えてきた。山頂付近に白い巨大な看板、H、O、L、L、Y、W、O、O、D。旅客機はこのサインに向けて一直線に進む。ぐんぐん迫るハリウッドサイン。すぐ目の前にあの看板が。そして旅客機は看板にぶつかるぎりぎりを通過し、山越えを果たした。非常に興奮した。
 ハリウッドサインの南側は高級住宅地だったが、北側は何もない。草の生えた変哲のない山だ。テレビや写真ではあまり見ることのない風景を目にして感心していると、飛行中なのにドアが開いた。どうしたのかと思って周りを確認すると、誰もいない。いなくなっている。まさかと思って窓の外を見ると、みんなパラシュートを背負ってダイビングしているではないか。俺だけ出遅れて機内に取り残されてしまった。地上へと落下していく人影は5つ。機長であるレトロプロダクトでさえ飛び降りていた。俺は慌てて操縦席に移り、操縦桿を懸命に引いた。が、飛行機など操縦した経験はないし、そもそも手遅れだった。
 旅客機はバランスを崩して右翼から墜落、大爆発。俺の体はバラバラに吹き飛んだ。



この記事に対するコメント


お気軽にコメントをお書き下さい











«  | ホーム |  »