とりぶみ
実験小説の書評&実践
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【小説】殺さんでするロサンゼルス観光③   (2017/03/24)
連載第3回
 コンビニ強盗
 車を取り戻す
 ギャングたちに認められる




コンビニ強盗
 小腹がすいたのでコンビニエンスストアで何か買おうと思った。
 カロリーメイトやお菓子、ジュースやタバコなどを買い物かごにどっさり入れてレジで会計。財布の中をあらためたとき初めて、弾丸をたんまり買ったせいでお金がほとんど残っていないことに気が付いた。しかし、何も持たず店を出るという選択肢は俺にはなかった。しかたがない。俺はピストルを店員につきつけた。店員は目を見ひらいて両手を挙げた。他の客は出口に殺到し、店の外では悲鳴や怒号が聞こえた。「カネ」という単語を連呼し、レジから金を要求すると、店員はレジの中身をビニール袋に移しだした。恐れおののきながらのその作業はまだるっこしく、早く早くと叫ばずにはいられなかった。
 レジの中が空になり、店員はビニール袋を床に投げてきた。俺がしゃがんでビニール袋を拾うと、その一瞬の隙をついて、店員は通報ボタンを押し、奥の事務所に逃げ込んだ。
 俺は脱兎のごとく店を出たが、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。早い。間もなくこのコンビニに急行してくるのだろう。一刻も早くこの地区から脱出しなければ。
 交差点に向かって猛ダッシュした。信号待ちの運送バンにピストルを突きつけ、配達のお兄ちゃんに車を譲ってもらった。乗車。アクセルを思いっきり踏むと、タイヤは大きなスキール音を立てて空転した。白い煙が立ち上り、ゴムの焼ける匂いがした。
 バンがようやく動き出し、徐々に加速する頃には、パトカーが後方に姿を現した。俺はがむしゃらに逃走し、渋滞を避けるため歩道を走行した。何人か通行人を撥ねた。ディオ様の顔が思い浮かんだ。
 罪がどんどん重くなった。追跡するパトカーは台数を増やし、大捕物劇の一団はハリウッドの方角に向けて一丸となった。頭上でヘリコプターが飛んでいる。当然俺を追っているのだろう。指名手配をされる大罪人になってしまった。
 カーチェイスの舞台はやがてフリーウェイへ。日本でいう所の高速道路だ。
 ここで、パトカーに後ろから容赦なく追突された。横転させてでも停止させる気なのだろう。1台のパトカーが速度を上げてバンの前に回り込み、体を張っての体当たり。バンは横滑りをし、車体の左側が浮いた。片輪走行の状態になったがハンドルをこまめに切って体勢を立て直す。
 これ以上速度が上がらないので、絶対にぶっちぎれない。一計を案じた俺は、中央分離帯のガードレールが途切れている箇所、やわらかいラバーポールが林立する場所を突き抜け、一か八か対向車線に躍り出た。
 命がけの逆走。対向車は急ハンドルを切って俺を避ける。バンは時速100キロメートル、すれ違う対向車も時速100キロメートル。相対的に、前方から時速200キロメートルで自動車が突っ込んでくる世界。握ったハンドルを決死の思いで左右に回すが、バンはあまり小回りが利かない。同じく小回りが利かないトラックと、必然的な結果ではあるが、正面衝突をした。トラックの運転手は即死。俺も頭を打った。
 トラックにめりこんだフロント部分を引き抜く手間を惜しみ、バンを乗り捨てた。ガードレールを乗り越え、道路脇の山を這い上がる。草で滑り、容易には登れない。俺の足元に何台ものパトカーが集合し、警察官がぞろぞろ降りてくる。俺のあとに続いて山をよじ登りながら、発砲を開始する。ひゅん、ひゅん。背後から耳元を銃弾が追い抜いていく。何発か被弾した。
 俺はなんとか頂上に到達し、そのまま向こう側へと駆け下りた。足がもつれた。急斜面を転がった。止まれない。頭をしこたま打ち、岩肌に激突して肩を骨折したが、転落速度はさらに勢いを増し、山の麓までノンストップで転がり落ちた。樹木に引っかかってようやく止まった。
 茂みの中で身をひそめる。ようやく山を登り切った警察官は俺の姿を見失い、尾根から麓に向けて威嚇射撃をしている。息を殺してじっとする。
 そうして数分、茂みの中で動くのをこらえていたが、上空を旋回していたヘリコプターが俺の姿を目ざとく見つけ出し、茂みを根こそぎ伐採する勢いで銃弾の雨を降らせた。俺は死んだ。




車を取り戻す
 GPSマップを確認すると、車のマークがスクラップ工場に表示されたままだった。これは発信器が無事ということで、発信器が無事ということは愛車は爆破されずに残っている可能性が高いということだ。
 エクスペンダブルズのような連中はもういなくなっているかも知れない。取り戻すなら今だ。小銭すら持っていなかったが俺はタクシーを拾い、現場に向かってもらった。目的地に到着すると俺は運転手に銃口を提示して代金を踏み倒し、さっそうと砂地の上に降り立った。
 周囲を見回してみる。静かだ。エクスペンダブルズは居なくなっていた。俺はGPSをたよりに愛車のある場所にゆっくりと歩み寄った。
 ハチロクは、ほとんど直方体に近い物体と化していた。フロント部分がぺちゃんこに圧縮されており、ドアはもぎ取られていた。ガラス部分はすべて崩落し、タイヤは4輪ともパンクしていた。辛うじて残った青色の塗装が、かつて俺の愛車だったことを物語っている。悲しかった。が、なぜか逆に笑えてきた。ここまでするか。おそらくダンプカーなどで前後から追突したのだろう。何度も。何度も何度も。挟み込むようにして。
 試しに乗ってみた。座り心地は最悪。エンジンを掛けてみた。きゅるきゅる、きゅるきゅるきゅる。空回りするばかりだったが、執拗にキーを回していると、奇跡的にエンジンが始動した。はたして走れるのだろうか。俺はアクセルを踏んだ。ハチロクはみじめなほどの速度で動き始めた。情けなくなった。パンクしたタイヤがバーストし、ゴム部分がベロベロになった。ホイールが剥き出しになり、アスファルトと接した面が火花を飛び散らす。少しハンドルを切っただけで勝手にドリフトし、立て直そうとハンドルを切るとその場でスピンしてしまう。どんなに頑張っても最高時速50キロメートルほどしか出ないし、アクセルをこまめに踏まないとすぐにコントロールをうしなう。修理工場に持って行ったとしても、新車を買うのと同じくらいの料金が必要になるだろう。
 ヒビの入ったカーナビを最寄りの修理工場に設定し、瀕死の体を引きずりながら病院に牛歩を運ぶケガ人みたいに、俺はのろのろと目的地を目指した。油断するとすぐにスピンする。急な坂道を上れないのである程度は自分でルートを考えねばならない。高地を迂回し、やっとの思いで平地に出た。ここから修理工場までは平坦な道が続くはずだ。




ギャングたちに認められる
 と、2台のスーパーカーが暴風雨のような勢いで近づいてきて、俺の車を取り巻いた。また殺されるのか。やれやれ、好きにしてくれ。俺は突破をあきらめた。ブレーキをしたままアクセルを踏み、豪快にエンジンをうならせた。ハンドルを思いっ切り回すと車はその場で回転し、ホイールが火花を散らしながらガリガリとアスファルトを削り、その痕跡が大きな円を路面に描いた。
 スーパーカーから3人のギャングが降りて来た。真っ白なコートを羽織り、真っ白なテンガロンハットをかぶったサングラスの男。深紅のスーツ上下、見事なコーンロウ頭の男。青い半ズボンにファーストフードのロゴが描かれたTシャツ、情けない表情の豚マスクをかぶった男。3人とも武器を携えている。
 3人は、半ばやけくそ気味に路上でアクセルターンをかます俺の様子をしばらく観察していた。すると、旋回するハチロクの屋根に豚マスクが器用によじのぼり、屋根の上で腰ふりダンスを始めた。俺はリズミカルにクラクションを鳴らし、豚マスクのダンスとシンクロした。
 この時点で、もしかしたら仲良くなれるのではないかと思った俺は、車から降りた。すると、コーンロウがピストルで俺の頭に狙いを定め、テンガロンハットもライフルを構えた。いつでも殺す準備オーケー。さすがロサンゼルス。目の前の相手が敵か味方かわからない以上、彼らとて片時も気を抜くことは出来ないのだ。
 3人は俺の挙動を見守っていた。もし俺が不審な動きをしたら、たとえばピストルを取り出したりしたら、即座に殺すつもりだ。
 俺はハチロクに蹴りを入れた。繰り返し繰り返し。3人はさすがにおかしさをこらえ切れなかったらしく、笑い始めた。そして、バールや警棒で俺の応援に加わった。
 数分間、陽気なムードで破壊活動は続いた。エンジンルームから煙が立ち上った。不思議な安堵感があり、愛車が臨終に際していても悲しくなかった。ギャングたちとの名状しがたい一体感があった。
「ちょっとどいて」
 コーンロウが指示した。テンガロンハットと豚マスクはすぐにどいたが、俺は英語が聞き取れず車を蹴り続けた。そんな俺をコーンロウは不満に思うでもなく、根気よく「どいてくれ」を繰り返した。俺もようやく彼の英語を理解し、車から離れた。
 コーンロウはロケットランチャーを肩に担いで構えた。まさかとは思ったがそのロケット弾は本物で、ハチロクに向けて発射された。大爆発、炎上。ハチロクは黒焦げとなって燃え盛り、巨鯨が嘔吐する勢いで黒煙を吐き出した。俺は腹をかかえて笑った。涙が出たが、悲しくてではない。信じがたい光景に爆笑したからだ。おまえら軍人かよ。
「保険会社に電話しろ。俺の口座から修理費が全額引き落とされる」
 コーンロウは破壊衝動に突き動かされたわけではなく、俺のためにハチロクを破壊してくれたのだった。
 パトカーが騒ぎを聞きつけて集まってきた。3人はスーパーカーに乗り込んだ。独り取り残されてあたふたしている俺に、テンガロンハットがクラクションを鳴らして「乗れ」と合図した。俺は彼のスーパーカーに飛び乗った。



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