とりぶみ
実験小説の書評&実践
プロフィール

  • 執筆陣紹介

    大塚晩霜
    原作/草稿担当。

    大塚晩霜
    推敲/編集担当。

    大塚晩霜
    昼寝担当。



過去記事



最新記事



最新コメント



RSSフィード



検索フォーム



リンク



【小説】殺さんでするロサンゼルス観光②   (2017/03/21)
連載第2回
 車を盗まれる
 ランボー軍団
 射撃練習/消防車

(※ この連載は予告なく中止する場合がございます。16回分まで書きたまってますが)




車を盗まれる
 サングラスは去っていった。少しショックだったが、ピストルも現金も無事なのであまり気に病まない決心をした。それに、愛車もある。俺はしばらくドライブを楽しむことにした。なめらかな流線型、美しい青色のハチロクちゃん。
 ロサンゼルス東部を安全運転で走行していると、1台のネイキッドバイクが近づいてきた。あきらかにこちらに興味を示しているので俺は停車してやった。ライダーはバイクから降り、俺のハチロクをしげしげと眺め回した。さてはこのスポーツカーがうらやましいのかと思い、俺は彼に観察の時間を与えてやった。すると彼は革ジャンのふところからサブマシンガンを取り出し、射撃の体勢を取った。冗談だろオイ冗談だと言ってくれ。蛇に睨まれた蛙のように俺はすくみ上がり、逃げる間もなく上半身を人間シャワーヘッドにされた。身体中に開けられた穴という穴から血が細い線となって噴き出した。
 暗転。
 100メートルほど離れた場所で意識を取り戻した俺は、革ジャンがハチロクに乗り込むのを目撃した。まさかと思って猛ダッシュしたが間に合わなかった。革ジャンに奪われたハチロクは爆音を轟かせて走り去った。俺はどうして良いかわからず、急に悲しくなった。泣きそうだった。せっかく手に入れた愛車を数時間で失った。外国コワイと思った。ロス暴動の頃ならいざ知らず、治安が良いと思っていたロサンゼルスのイメージがいっぺんに悪化した。
 途方に暮れたが、ハチロクには発信器が装備されていることに思い至った。即座にスマートフォンからGPSマップを呼び出す。どこだ。いた。愛車を表す車のマークはマップ上を北上していく。追うしかない。俺は乗り捨てられたネイキッドバイクにまたがり、同じく北を目指して発進した。唸りを上げるエンジン。前輪がふわりと浮き上がり、ウイリー状態で加速していく。
 かと言って二輪車の運転がうまいわけではない。ウイリーをしたのは物の弾みだ。初めの方こそスタントマンさながらの曲乗りだったが、そのうちぶざまに転倒した。人とバイクとは分離し、人であるところの俺は硬いアスファルトの上を転がった。地面との摩擦力に負ける俺をその場に残し、バイクは横倒しになりながらも接地面に火花を散らしながら彼方へと滑っていった。
 たとえ大事故であっても大都会は無関心だ。路上に倒れ伏す俺に通行人は目もくれやしない。激痛よりも恥ずかしさが大きかった。俺はそそくさとバイクを立て直し、破損箇所をすばやくチェックする。走れそうだ。
 この間にもGPS上の車マークはゆっくりと北上を続ける。車泥棒との距離はひらく一方だ。地の果てまでも追ってやる。と言うか、追いつく自信がないので一刻も早く行き止まりである所の地の果てで停車してくれることを祈る。地の果て早く着け。




ランボー軍団
 GPS上の車マークは、中古車カーディーラーのマーク上で停車した。車泥棒は自分の所有物にするつもりで車を盗んだのではなく、換金目的で盗んだようだ。そうはさせてなるものかと、俺はバイクの速度を上げた。途中何度かすっ転んだが、あきらめず、中古車カーディーラーに急行した。
 俺が到着する前にGPS上の車マークは再び移動を始めた。買取りを拒否されたのかも知れなかった。この間に俺と彼との距離はだいぶ縮まったが、それでもなかなか追いつけなかった。追跡劇は続く。
 30分後、我が愛車はスクラップ工場で停車した。そこはろくに舗装されていない山の上にあり、ロサンゼルスとは思えない人跡稀なさみしい土地だった。
 度重なる転倒でガソリンタンクがベコベコになったバイクを駆って、俺もどうにかスクラップ工場に到着した。ガラスやタイヤが取り除かれ、赤茶色に錆びついた乗用車のシャーシ、廃タイヤ、その他あらゆる工業的廃材が乱雑に積み上げられている。
 あった。乾燥した砂地の上で、ピカピカの青い車体を光り輝かせているハチロク。俺はトタン塀の裏にバイクを乗り捨て、塀に背をつけて様子をうかがった。
 塀からそっと覗きこむと、革ジャンライダーの姿はなく、3人の屈強な男がハチロクを取り巻いていた。親しげに談笑している。男Aは迷彩ズボンをはいていて、上半身は刺青だらけの裸。長髪で額には黒いバンダナを巻いている。男Bは緑のワークパンツにやはり上半身裸。金色のぶっといネックレスが陽光を照り返している。男Cは黒のタンクトップにオレンジ色のハーフパンツ、スキンヘッドでタバコを吹かしている。そして全員、両手持ちのカービンライフルを捧げている。なんだよこれ、本当にロサンゼルスかよ。ランボー怒りのアフガンじゃねえんだよ。
 絶対勝てる気がしない。奪い返す自信がない。こちらはピストルを撃ったこともないド素人、たとえ機銃を用意したとしてもまったく勝てる気がしない。エクスペンダブルズみたいなあいつらを殺すにはミサイルでも持ってこない限り無理だろう。
 しかしそれでも、俺はあきらめ切れなかった。愛車を奪還するのが不可能だとしても、どうにかしてあの集団に一矢を報いたい。辺りを見回すと、200メートルほど離れた路上に1台のジープが駐車しているのを見つけた。やつらのうちの誰かが乗ってきた車かも知れない。「この車をパンクさせるなりボディーに傷をつけるなりして嫌がらせをしよう」と、みみっちいことを考えた。俺は忍び足でジープに近づいた。
 ジープにはキーが差しっ放しだった。やつらの脳みそは筋肉で出来ているに違いない。このまま盗み去ってやろう。かとも思ったが、俺も男だ。どうにかしてやつらを痛い目に遭わせてやりたかった。少しでも。このまま引き下がっては愛車を盗まれた哀しみ・怒りは収まりそうになかった。
 決めた。猛スピードで突進し、あのうちの誰か一人でも轢き殺してやる。そしてそのままの勢いで逃走しよう。
 俺は静かにエンジンを始動させ、悟られぬよう、やつらの直線上にジープを移動させた。幸いにもやつらは気付いていない。俺は前方の一点を睨みつけ、そして一気にアクセルを踏んだ。猛突進、ハチロクに衝突しないようなライン取りで集団に突っ込んだ。時速100キロメートルほどで男Aに激突、派手に吹き飛ばしてやった。即死だろう。
 当初思い付いた計画では、そのまま逃走を試みる予定だった。だが、ちょっとした欲が出た。突然ジープが突っ込んできてやつらも相当に面食らっただろうし、その混乱に乗じてハチロクを取り返せるかも知れないと思ったのだ。どうする。瞬時に車両を乗り換えるか。とりあえず急ブレーキを踏んだ。踏んでしまった。
 その一瞬の気の迷いが、間違いだった。
 男Bと男Cは落ち着き払っており、ライフルを構えてジープに一斉掃射を開始した。俺の全身から血と肉片が飛び散り、砂地を汚す。
 そして。
 俺は撃ち抜かれてない方の目で、男Aがケロリと立ち上がるのを見た。
 絶対に勝てない。
 男たちは俺の愛車をボコボコにし始めた。男Aが金属バットでボディーを殴打する。男Bが車の上によじのぼり、力任せに屋根を踏みつける。男Cがゴルフクラブで窓ガラスを破砕する。俺には何もできない。何もしてやれない。その光景を遠巻きに眺めているしかなかった。
 取り戻すことを泣く泣くあきらめた俺は、スクラップ工場を後にし、産業道路をとぼとぼ歩いた。




射撃練習/消防車
 ロサンゼルスは車社会だが、アメリカ合衆国は銃社会である。ピストルくらい扱えなければ殺され続けるはめになる。自衛のため、俺は射撃練習をすることにした。
 タクシーを拾い、運転手に身振り手振りを交えて行き先を告げた。射撃訓練場に行ってくれ、と。
 タクシーは爆走する。荒っぽいが決して何かに接触することのないプロの運転により、渋滞の列をごぼう抜きし、信号も無視し、高層ビルが立ち並ぶダウンタウンを目指してくれた。
 「LAガンクラブ」と書かれた巨大な倉庫の前でタクシーは停車した。中に入り、弾丸だけを購入する。手続きのあいだ、所ジョージの写真が飾ってあるのを発見した。
 鼓膜を傷めないためのイヤーマフを装着し、その後はひたすら、ボール紙の人間を撃ち続けた。狙いを定めて心臓を、顔を、何度も、何度も。
 集中して何十発・何百発と撃ち続けていると、射撃の姿勢も洗練され、弾の軌道も安定してきた。リロード速度も上がり、命中率も向上した。俺は閉店時間まで疲れを知らぬ機械のように発砲し続けた。その結果、マウンドから19メートル先のキャッチャーを百発百中で狙撃できるほどの腕前となった。もちろん、キャッチャーが動かないことが条件だし、必ずしもミットのど真ん中を必中できるわけではなかったが。
 俺は残金で買える分だけの弾丸を購入し、退店した。
 店を出た直後、不穏なサイレンが聞こえてきた。徐々にその音は大きくなり、建物の角から一台の消防車が姿を現した。火事かと思ってぼんやり見守っていると、消防車は俺の目の前で急停止した。
「どうしたのだろう、この辺に火の手は上がってないけどな」と思ってその動向を引き続き見守っていると、サイレンを鳴動させたまま、ホースから放水を開始した。
 俺に。
 激しい水圧に俺は吹き飛ばされた。路上をもんどりうって、壁に激突した。わけがわからない。俺は火事か? 消防車は暴徒を鎮圧する勢いで放水を続けた。その他の物質には目もくれず、俺一人に目がけて。
 この悪い冗談を俺は気に入った。水の冷たさが気持ちよかった。ただ、放水時間は長すぎた。終わる気配がない。息が出来ず、水を大量に飲んでしまった。意識が薄れていく。朦朧としていく視野の中で垣間見た消防車の運転席には、正規の消防隊員ではなく、スーツ姿のマフィアみたいなチンピラが乗っていた。笑っていた。
 黙っていても殺される。なんて治安の悪い街なんだろう。



この記事に対するコメント


お気軽にコメントをお書き下さい











«  | ホーム |  »