とりぶみ
実験小説の書評&実践
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    大塚晩霜
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【小説】そうだ、サシミにして喰っちまうか   (2017/02/12)
 場所
居酒屋、および土屋邸


 人物
土屋 土建業
日犀 自称プロサーファー
月座 よっぱらい(検定3級)
大塚 実験小説ヒョロン家
氷室 ガス検針員
金鏖 写真家(ヌード専門)
木星 天体 
ハムレット デンマーク王子、先王の息子、現王の甥
リヤ 先王
マクベス 将軍、後に現王
オセロー ヴェニス政府に仕えるムーア人貴族
アントーニオー ヴェニスの商人、燃える闘魂
ロミオ 居酒屋店員
綾香 土屋の内縁の嫁
拓郎 綾香の息子




 ホッケの来るタイミングで、自称建築業・土屋は座に加わった。生中を注文し、改めて乾杯した。
「遅かったけど、どうした」
「いやちょっと」
 初め土屋は話しにくそうだった。何か問題をかかえているように見えた。
「悩みがあんだったら何でも言えよ」
「そうだー何でも言ってくれー。解決してやれるかどうかーまた別の話らけど」
 土屋は苦笑いをして何事も語らなかった。お通しの枝豆をせわしなく口元に運ぶ作業に終始していた。
 誰もそれ以上は突っ込まず、女の話などしていたが、やがて土屋の方から切り出した。
「拓郎がさ……ちょっと」
 拓郎とは、土屋の内縁の妻の連れ子で、まだ1歳にも満たない赤ん坊だ。
「拓郎って誰?」
「綾香の子供だよ」
「で、その拓郎が?」
 土屋は語を継がず生ビールを飲み干し、おかわりを注文する。
「反抗期か?」
「タバコを吸い始めたとか」
「それとも、パパって呼んでくれないとか?」
 みんな笑いながら適当を抜かしたが、土屋はそれには取り合わず、2杯目のビールをゴクゴク飲み込んだ。ジョッキの中身が見る見るうちに半分になった。
 土屋は一息つき、少しホッケを見つめてから、ようやくのこと核心にふれた。
「拓郎がさ……動かなくなったんだよ」
「動かなくなった?」
 何を言っているのかよくわからなかったのでテンポ良く続けてほしかったが、また思わせぶりに黙ってしまった。
「動かなくなったって、死んだってこと?」
「ニートになっひまったってことか」
「うちでゴロゴロしてるのか。やっぱり反抗期みたいなもんだな」
「ちょっと待て拓郎ってもしかしてルンバの名前か何かか。赤ちゃんではなく」
 動かなくなった理由を好き勝手に予想した軽口の数々。まさかとは思ったが、土屋は最初の軽口に同調した。
「うん……。死んだかも知れねえ……」
 土屋は力なくつぶやいた。その深刻な様子はエイプリルフールネタとも思えず、仲間たちは何となく静かになってしまった。場のムードは一瞬で深刻になった。
「はぁ?」
「どうして」
 土屋の口は極めて鈍重だったが、仲間たちは根気よく問い詰めた。ぽつりぽつりと打ち明けてくれたところによれば、どうやらこの日、土屋は拓郎を折檻していたらしい。泣き声がやかましいので引っぱたいたり顔を枕で抑えたりして鎮めていたそうだ。しばらくしてそれがピクリとも動かなくなったことに気づいたとのことだった。
「死んじまったのかな……」
 ウーロンハイの氷を指でこねくり回す土屋の表情は、不治の病を宣告された患者にも似た気の毒さだった。拓郎くんの悲運を嘆く様子は1ミリもなかったが。
「救急車は」
「呼んでない」
「綾香は」
「仕事行ってると思う」
「何。放置プレイで飲み屋に来たわけ」
「うん」
 宴席は完全に白けてしまった。呑み続ける雰囲気ではなくなった。
「とりあえず土屋んち行くか。まだ生きてるかも知れないし」
「そうだな」
「じゃあ、ひとまず店を出ますか」
 一行は会計を済ませ、土屋の家に向かった。
 火犀の酔っ払い運転でヘロヘロ進む10分間、車中での会話はほとんどなかった。
 アパートの一室にどやどやと踏み込むと、そこには、鼻や耳から血をはみ出させた赤ん坊が転がっていた。
 拓郎は死んでいた。脈をとるまでもなく、医者に診断してもらうまでもなく、見事に死んでいた。「元・赤ん坊」というべきか、幼児の形をして服を着せられた肉塊に過ぎなかった。
「あーあ、こりゃ死んでるね」
「まひがいないね」
「やっぱりそうかなぁ」
「死んでる赤ん坊を見るのは初めてだけど、少なくとも生きていないことは火を見るよりもあきらかだよ」
 死体処理をどうしようか相談になった。自首するという選択肢は誰にも思いつかなかった。
「ありきたりだけど雑木林に埋めるってのはどうだろう」
「うーん。野犬か何かが掘り返したら?」
「掘り返すかね。掘り返したとしても、人がまったく来ないような場所に運ぶんだぜ」
「可能性は低いだろうけど、万難排していかねばな」
「とぅてぃ屋が逮捕さえるかろうかの瀬戸際らからな」
「新築マンションの土台部分に埋める──」
「お、自称建築業。その辺どうなの」
「左官だから無理。壁塗るの専門だもん」
「ドラム缶にコンクリート詰めして、海に沈めるのは?」
「沿岸に捨てただけだとすぐに発見されるかも知れない。だから船で沖に出る必要があるけど……その船はどうするよ。釣り船漁船をチャーターするにしても、ドラム缶を積みこんだら疑われるぜ」
「何かの拍子で浮かんでくるかも知れないしな」
「コンクリ詰めれも浮かんでくうものなおかな」
「やめとこ」
「却下却下」
「まず、死体を動かすのって結構冒険だよ。死臭や何やらで容易に発見される」
「毛布にくるんだりしても……」
「赤ん坊とはいえ、それなりにサイズあるからな。小型家電くらいあるだろ」
「とりあえず燃やすのがいいんじゃないか?とりあえず骨だけにする、と」
「コンパクトにするわけね」
「で、骨は細かく砕いて……」
「便所に流す!」
「でも下水処理場で人骨だってわかっちゃうらしいじゃない」
「人骨って面倒くせえな。コレクションしたけど要らなくなったラブホのライターよりも捨てにくい」
「あれガス抜くの無理だよな」
「じゃあ、散骨」
「粉になった骨を海やら山中やらにバラまくってことね」
「でもちょっと待った。このご時世に大規模な焚き火をするってのも不自然だぜ」
「そうだなあ。煙が出るし、においでバレるかも知れない。人肉を焼く特別なにおいで」
「りん肉を焼くにおいってろんなにおいかな」
「やめとくか」
「そうだな。却下却下」
「このままだと死体の運搬は困難。だが人肉を焼くのは無理。どうしたものか」
「そうだ、サシミにして喰っちまうか」
「なんだってー!」
「天才現る」
「ウソだろオイ」
「刺し身ってことは……生食か」
「大丈夫なのかよ。腹、壊さないかな」
「かのスウィフト先生もおっしゃってました。赤ん坊の肉は栄養分に富んでいて美味であると」
「スイフトって誰? テニスのしぇんしぇいか何か?」
「会田誠も女子高生に似た生物を食す絵を描いてるし、モンティ・パイソンだってカニバリズムのスケッチを発表している」
「蟹場リズム?」
「おまえはさっきから何を言ってるんだ」
「要するにだ。人の肉を食べるなんてのは得がたい経験だと思うんだよ。この機会をのがす手はない。ピンチをチャンスに変える! 人肉食は文化だ!」
「えええええええ」
「気が進まねえ。食が進まねえ。気持ちワリいよ」
「いや、食ってみたら案外うまいかもよ。少なくともスウィフトは旨いって言ってたよ」
「だからそのスウィフトってのはどこの先生なんだ」
「任天堂大学病院」
「任天堂の先生だったら信用できるか」
「どうする。俺、ちょっと食べてみてもいいかなと思い始めたんだけど」
「マジかよ」
「うーん。俺もちょっろ腹減ってきらかな」
「居酒屋でシメの料理頼んでないしな」
「よし、食べてみるか」
「賛成」
「マジかよ」
「食べたくないやつは無理に食べなくてもいい」
「そうらな」
「だけどこれだけは言っておく。今後、こんなもの、二度と食べる機会はないぞ、と」
「多分な」
「さて。どうやってさばくかだな」
「砂漠化らな」
「マグロの解体ショーに使うような包丁がないと切れないんじゃないか」
「うーん。普通の文化包丁で豪快にめった刺しじゃ無理かな?」
「待って。血痕が残ったりしたらマズいんじゃなかったっけ」
「そうさ。付着した血の量がちょっとだけでも、たとえどんなにキレイにふいても、サツは目ざとく見つけだすからな」
「こまったもんだな」
「北京ダック方式でいきますか」
「と、言いますと?」
「表面の薄皮をはいで食べていく」
「それならケバブ方式と言ってほしかったね」
 ダイニングテーブルに血しぶき防止のビニールが掛けられた。このテーブルは自宅でのパーティーに備えた立派なテーブルで、3人家族用としては無暗にデカい。今の今までパーティーなど催されたことはなかったがここに来てようやく活躍の場を得た。
 脱衣した食材が──つまり拓郎が未調理のまま食卓中央に安置された。
 会食者は着席し、各々ナプキン代わりのポリ袋を襟元から胸に垂らした。
「それではよござんすね。どちら様も準備よろしいですね。それでは、いーたーだきーますっ」
「いーたーだーきーまーす」
 手を合わせた。そしておのずと眼を閉じた。南無阿弥陀仏。おんあぼきゃあ。
 ロボットの操縦桿よろしくフォークとナイフを握りしめ、まずは食材を凝視した。どこから手をつけたものやら見当がつかない。
「まずは指……なのかなあ」
「ほっぺとか柔らかそうでうまそうだけどね」
「なんつうかこう、顔がこっち向いてるとためらっちゃうね」
「裏返すか」
 拓郎はうつぶせになった。
「ケツ、いくかな」
「ロースってどこかな」
「肩?」
 おそるおそるではあるが、各人ナイフを入れ始めた。入刀です。
 プツッ。すべすべのお肌の表皮に、ナイフがきれいな線を引く。血がうっすらとにじむ。
「血抜きってやつをした方が良かったのかな?」
「そうだなあ」
「さあ、肉を切りとるがよい。血を流してはならぬぞ。証文に書かれているのは1ポンドの肉だけだからな」
 ナイフは真皮を切り裂き、さらに深く分け入っていく。手に伝わる感触がだんだんと変わっていくのがわかり、やがて皮下脂肪に到達した。赤いものがにじみ出し、筋肉があらわになった。
 何カ所からか切り込みを入れ、食べやすいサイズに切り分けた。うぶ毛も生えていない、生の肉。フォークに刺して、まじまじと観察する。
「ほんとに食えるのかなあ……?」
「食える食える。なんだって食っちゃう中国人が、すでに食ってっから」
「まじで。でも昔の話だろ」
「いや最近。なんか芸術家が。パフォーマンスの一環だとかいってさ」
「へえ。おえあちも芸じゅちゅらっていえあ逮捕されにゃくてすむかにゃ」
 おそるおそる、くちをつけてみる。拓郎のけつの肉。
「うわー、キスした!」
「キス・ヒズ・アス!!」
「セップンだー」
「やめようよそういう罰ゲームみたいなの」
「はははは」
「そだな。こういうのはせーのでいくか。せーので、みんないっせいに食べるの」
「よし」
「じゃあ……せーの! って言ったら食べるのね」
 土屋がフライングして一人だけパクリと食いついた。土屋はちょっと吹き出しそうになったが、それは気持ち悪くてではなく、笑ったからだ。
「ははははは」
「よくある手口に引っかかりおって……」
「どう、感想は?」
「案外いけるかも知れない」
「まじで」
「よーし、俺も食べよっと」
「なんつうか、エスカルゴ食わされるよりぜんぜんマシだよな」
「ていうかうまそうだよ」
 みんな何の抵抗もなく口の中に拓郎の肉片を運んだ。むしゃむしゃと味を噛みしめる。死後それほど経っていないため拓郎は新鮮そのものであり、ぷりぷりとした触感を楽しめた。
「これは……」
「想像以上にうまいな」
「フレッシュ・ミート。なんの肉に似てるかな」
「強いていえば、人間の肉に似てる」
「食ったことなかっただろ」
「さしみだなあ」
「そうだな。魚くささのないトロっつうか、くちのなかで簡単にとけていく」
「消化にもよさそうだな。もともと同じ種類の動物なわけだし、他の動物の肉を食うよりよっぽど自然な気もするね」
「ケツだけか? こんなにうまいのは」
 背中やふとももに、我先にナイフを入れていった。ふくよかな肉づきの場所は、どこもかしこもうまかった。
 食べ進むうちに、内臓が見え始めた。
「これが大腸だろ。で、小腸。そしてこれが、たぶん腎臓だ」
「これも食うの? 糞が詰まってんだろ?」
「おい。拓郎ってうんこ臭かったか?」
「うーん、そうね。おっぱい卒業してから臭くなったかな」
「でも、せっかくだからこれもなあ。けっきょく、食べるしか死体処理の方法がないわけだし」
「内臓だけ生ごみで出したら、たぶんバレるよね」
「食べるしかないかあ」
「もつ鍋みたく、鍋で煮るか」
 鍋で煮ることにした。
 背中側から内臓を引きずりだし、癒着している部分はそぎおとした。鍋が沸騰するのを待つあいだ、少し流水で洗うことにした。
「あ!待て!」
「どうした?」
「血が流れるのは、まずい!」
「あ!」
 急いで水道を止めたが、結構な量の血が排水口にながれてしまった。
「やばいかな」
「やばいかもな」
「いや、でも、ダイジョブじゃね?」
「ダイジョブかもな」
「じゃあ、もう1回、水洗いするよ」
「いまさらしょがないもんな」
「1発中出しするのも3発中出しするのもいっしょ、みたいなね」
 鍋が沸いたので内臓を投入した。調味料で味つけしながら、長時間ゆっくりぐつぐつ煮ることにした。
 煮えるまでのあいだ、拓郎をあおむけにひっくり返し、ほとんど無傷のおなか側のめぐみをおいしくいただくことにした。無傷といっても、血にまみれてすごいビジュアルだったが。
「血まみれらな」
「こいつ、六本木のハロウィン行ったらけっこうモテるよ」
「リアルだもんな」
「リアル、っていうか、本物の血だし本物の死体だけどな」
 みな器用におなかの脂肪を切りわけ、ぱくぱく食べた。
「うまい」
「うん。うまいな」
「顔がグロいな」
「顔も食べるか」
「食べるよ。一切の証拠がのこらないように、ぜんぶ食べるんだよ」
「うえー。俺は顔はちょっとパスだなあ。マグロのかぶと焼きとかも苦手なんだよ」
「なんで。うまいじゃん」
「グロいじゃん、アレ。目玉がギョロッとしててさ」
「かーっ、びんぼう舌だね~。目玉が一番うまいのにさ。くちに含んでしゃぶるの最高だよ」
「うわー。むりだわ。ゲテモノ食いだなおまえ」
「グルメと呼んでくれたまえ」
「ついでに言うと牛タンもダメ」
「マジで!あんなうまいのに」
「ウシとディープキスしてると思うと、拒絶反応おきちゃうのよ」
「あんがいヒヨワだな」
「じゃあおまえは顔食わなくていいよ。でも、だからってかわりに腹とか腕をひとよりいっぱい食うのなしな」
「えー」
「ちんこはどうする?」
「ちんこ、ねえ……」
「うまいかもしれないけど、ちんこをくちにふくむって、ようするにフェラチオするってことでしょ」
「ちょっとなあ……。ホモだし」
「児童ポルノになっちゃうよな」
「児童ポルノはよくないよな」
「はいはいはいー! じゃあ俺が食べるー!」
「あ。ホモいた」
 酒が進み、鍋が煮える。内臓も美味だった。腸に残った内容物は、「人体の一部じゃないから、生ごみで出して問題なかろう」ということで、歯でこし取り、はきだした。
 拓郎はだんだん食べる部分がなくなってきた。
「理科の実験室みたいになってきたな。あれなんだっけ、ガイコツのやつ」
「骨格標本」
「そうそう」
「どっかの学校に寄付するか」
「バレるわ」
「骨はなあ。さすがに食えないよなあ」
「俺たちはべつに人間を食べるのが好きなわけじゃなくて、うまいものが好きなだけだから」
「骨なんて犬にくれてやりゃいいんだ」
「そういうわけにもいかないな」
 あれこれアイデアを出しあったすえ、ハンマーで粉砕しようということに決まった。ボディーをとうめいにしよう。だけど、かたいのでとりあえず、鍋で煮てやらかくすることにした。
「ちょっとさ。あんまり盛大にガス使うのやめてくれる? 今月ガス代けっこういってんのよ」
「まあまあ」
「だって骨がやわらかくなるまで煮るってどうよ。どんだけ時間かかんのよ。三ツ星レストランかよ」
「そうとううまいスープが取れるはずだぜ」
「そうかなあ。ガス代に見あうほどの味ぃ?」
「とんこつスープだって、あれ、もとはといえば失敗品だったんだよ」
「どゆこと?」
「ラーメン屋の大将がさ、ダシ取るためにブタのほねを煮こんでたわけ。けっこう長時間煮るわけだけど、ちょっと用ができたから、奥さんに火の番をまかせて出かけたわけ。奥さんには、くれぐれも煮え立たせるなよ、沸騰するまえに火を弱めろよ、って言ってね」
「ほうほう」
「で、大将が帰ってきたら、みごとに煮え立ってんの。奥さんが目をはなしたわけ。大将、カンカンになって怒ったのなんの」
「まるで見てきたように語るね」
「ふんふんそれで?」
「で、スープは真っ白ににごっててさ。しかもくさい。こんなもなあ、飲めるわけねえ、ってんで、捨てようとしたわけ。でも、捨てるまえに、ひとくち飲んでみっか、ってことになった」
「それが、とんこつスープの誕生秘話か」
「そゆこと。ケガの功名ってやつだよ」
 拓郎の骨もグツグツ煮えてきた。いいダシが取れるかも知れないのでこんぶも投入した。
「とんこつのようにドロドロに煮えるまで……クソ時間かかるよな」
「どうする。桃鉄でもするか?」
「俺さ、まだ腹へってんだよね」
「えー。どうすんの。もう、とくに何もないよ」
「このなかのだれか、ジャンケンで負けたヤツぶっ殺して追加料理にする?」
「いやー、さすがにもう食べあきたよ」
「うまかったけどな。量的には、ブタの丸焼き食べるようなもんだもんな」
「赤ちゃんでもこんな食べごたえあるんだから、おとななんて食べきれるわけがない」
「おまえら全員まずそうだしな」
「俺さ、食べたいもんがあるんだよね」
「なに?」
「サラブレッド」
「サラブレッド? 競馬の?」
「そう。食べてみたくない? 最高の桜肉なわけだろ」
「なるほろなー」
「俺もナリタブライアンの脚とか食べてみたいかも」
「ナリタブライアンってまだ生きてんの」
「わからん」
「でもどこで食べるよ。そんなもん売ってないだろ」
「美浦のトレセン」
 遠く茨城県まで出かけることにした。火犀の酔っ払い運転でヘロヘロ進む。美浦は遠く、ずいぶん時間がかかったが、道中のことはあまりおぼえていない。たぶん、寝てしまった。
 トレセンでのできごとは、とくに書くべきことがない。みんなへべれけに酔っていたため、侵入できなかったのだ。侵入したところで、サラブレッドに蹴り殺されていたかも知れないが。
 サラブレッドの馬刺しをあきらめ、同じ道をひきかえす。ずいぶんと時間をかけて土屋のアパートに戻ってくると、やけに明るい。
 火事になっていた。
「どこの馬鹿が燃やしたんだよ」
「あらあら」
 土屋はワンピース全巻が燃えてしまったことをしきりになげいた。
「でも、焼けてくれたら証拠隠滅になるんじゃないか」
「うーん、焼け跡から警察が死体を見つけてさ、それが鍋の中に入ってたら怪しまれるんじゃねえか」
「まあ今日はとりあえず俺んち来いよ。飲み直そうぜ」
 俺たちは明け方まで飲み続けた。一人また一人と眠りに落ち始め、太陽に照らされる前には6人全員が闇に沈んだ。
 翌日の昼過ぎに目を覚まし、ポテトチップスなどをつまみながらダラダラしたあと、ラーメンか何か麺類を食べたい気分になり、腹ごしらえに出掛けた。そのついでに土屋のアパートの様子もちょっと見に行った。
 アパートの住人同士何か話していたが土屋に気がつくと話しかけてきた。無事だったことを祝福し、そして始末を語った。
 焼け跡からは赤ん坊の他に女の死体が見つかった。その部屋に住むキャバ嬢、つまり土屋の内縁の妻だった。
 俺たちはラーメンを食べたあと、昨日の居酒屋で乾杯した。昨日ほど長居はせず、20時に解散した。



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