とりぶみ
実験小説の書評&実践
プロフィール

  • 執筆陣紹介

    大塚晩霜
    原作/草稿担当。

    大塚晩霜
    推敲/編集担当。

    大塚晩霜
    昼寝担当。



過去記事



最新記事



最新コメント



RSSフィード



検索フォーム



リンク



○ Mr.XⅩ××× ×   (2007/09/27)
『まる ミスターエックス十世vsぺけかける ばつ』
もしくは
『フォー・ライティン・メンタル・クリニック』



【平家翔】
 こんにちは。
 どうぞよろしくお願いします。
 えーと。わたしのファンからの、熱いリクエストにお応えして、やってまいりまして。いえ。いえいえ、あの、ちがいました。そう、ここにはその、友人にですね、勧められて、来ました。はい。
 別に、わたし自身はわたしのことを特別な人間だとは思っていません。いたって普通だと思っています。だけど、友人がぜひにと拝み倒すものだから、ま、いちおう来てみました。
 特に何もないと思います。何も。何もない。何も変わったところなど。何も変わったところなどない。
 あああああああ。何もおかしくなんてない。おかしいのは、おかしいのはわたしの方じゃない。おかしいのは、そっちの方だ。おかし、おかしいのは、あああ、あああ。いいえ。別に興奮なんかしていませんよ。いいえ!全然!
 あんなにガバガバ出た石油~。今では水すら湧きもせぬ~。不毛の大地、枯渇の砂漠。掘っても掘っても何も出ぬ~♪アハハハハハハ。
 アハ。
 不調である。何も思い付かない。思い付いても書き留める気力が無い。先生、私はどうしたらいいでしょうか。

【ミスターX】
 のっけからイカれていていささか困惑するが、当院に来た理由は「文筆活動が思う通りにいかない」ということでよろしいかな。
 案ずるなかれ。この不調は、上げては下がり下げては上がる波濤のようなものである。この波頭がいつか盛り返すことを君は経験で知っている。株価の波は常に変動する。それを知っているから貴殿は以前のように慌てはしない。本当に切羽詰まっていたらそのような狂態を演じることも出来ないはずだ。本当に枯れた人間は、ただただ沈黙してしまう。貴殿の不調は、単なる下り坂。放っておけばそのうち必ず右肩上がりになる。
 もっとも、心電図でいうところの心拍停止すなわちご臨終にならなければ、だが。

【平家翔】
 その、ご臨終とやらになりそうで。近い将来好不調の波が震動を停止し、単一音を鳴らしながら水平線を描きそうな予感がするのです。このままでは作家生命が絶たれそうで。わたしから創作を抜き取ったら何が残りましょうか。皮しか残らない。煮ても焼いても食えぬ皮しか。抜け殻になってしまいます。それが怖くておちおち垢擦りも出来ません──もしかすると自分はもう皮だけかも知れない、じゃあせめて皮だけでも大事にしよう、と思ってここ一ヶ月ばかり風呂に入ってません。
 そんなわたしの惨状を見かねて友人に強制連行されてこの精神科にいらっしゃったわけですが貴様おれを治せるか。治せるものなら治してみろお願いします。

【ミスターX】
 まず聞くけど、スランプの原因、何か思い当たることはあるか。失恋したとか、職を失ったとか、信用を失ったとか、財産を失ったとか、髪の毛を失ったとか。

【平家翔】
 失った物と言って特に思い当たる物はありませんが。そうですね。童貞くらいでしょうか。

【ミスターX】
 それだ!

【平家翔】
 それですか。

【ミスターX】
 人生に於ける重大事。たとえば結婚や出産、入学や卒業、近親者の死。こういう物に出くわすと、人は変化を体験する。生活環境が激変すると心身の調子を崩したりすることもある。特に物書きなんてのは神経がキャシャだから、すぐ環境に影響される。だから君はあれだよ、童貞を失ったから物が書けなくなったんだよ。少年性?っていうのかな、それも一緒に喪失したのだ。大人として俗塵を浴び、純粋な精神を濁らせてしまったのだ。はい、原因わかった診察おわりー。帰った帰った次の人どうぞー。

【平家翔】
 いえ実は。童貞を失ったというのはウソです。一種の見栄です。まだ捨ててません。後生大事に守っていくつもりです。

【ミスターX】
 ウソつきやがったのか!

【平家翔】
 ごめんなさい。でも、環境の変化っていうのは心当たりがありますよ。

【ミスターX】
 ああごめん笹川のおばあちゃん、呼んだけど診察もうちょっと待って。──で、その環境の変化っていうのは具体的にどういう物かね。

【平家翔】
 本当は夜型人間なんですけど、仕事の関係上とにかく朝起きるのが早くなりまして。

【ミスターX】
 お仕事は何を。競馬の調教師とか漁師とか新聞配達とか?2時くらいに起きる感じの。

【平家翔】
 それはもう、朝じゃないでしょう。夜でしょう。わたしが起きるのは4時くらいです。

【ミスターX】
 朝の4時。4時か。某作家のクリエイティヴィティがピークを迎える時間だね。君にもあるかい、最も創作に没頭できる時刻ってやつが。

【平家翔】
 あります。ミッドナイト12時を境に前後3時間・のべ6時間ほどがわたしの習慣的な執筆タイムです。どういうわけかこの時間帯は指がキーボードの上を軽やかにダンスするんです。昨日でもない、明日でもない、今。日付変更線の上にいて、昨日と明日両方に片足ずつ突っ込んでいる、そんな状態。その時なぜか文章を大量生産できるのです。

【ミスターX】
 ふむ。古くなった昨日の自分を捨て、新しい明日の自分を迎えるための準備をする時間帯か。

【平家翔】
 というとなんだか詩的で聞こえはいいですが結局それって脱皮ですよね。ヘビみたい。

【ミスターX】
 絶好調時の君の文章って結局、言ってみりゃ脱ぎ捨てられた古い皮だね。日焼け跡のようにポロポロとむけ落ちた汚い薄皮、だ。

【平家翔】
 失礼な。

【ミスターX】
 だってそうだろうが。

【平家翔】
 そうかも知れません。すみません。

【ミスターX】
 はい、それじゃあ診察終わりです。不調の原因は環境の変化ってことで。解決策は、仕事を変えること。バイバーイ。

【平家翔】
 待って下さい!仕事を変えずに創作力を回復する方法が知りたいのです。だってね、ひどいんですよ本当に。わたし、『たりぶみ』というブログに週1で小説を掲載してるんですけど、今週はこんな作品を公開しようとさえ思ってたんですよ…?『古今東西──王者vs挑戦者』っていう…。

【ミスターX】
 どれだけヒドイ作品なのか、ちょっと朗読してみて下さい。案外、本人が思ってるほどヒドくないかも知れないよ?

【平家翔】
 じゃあ読みます。
 古今東西──王者vs挑戦者。
 作・ぺけかける。
「古今東西スマップのメンバー! 木村拓哉!」
「中居正広」
「香取慎吾!」
「稲垣吾郎?」
「草剛!」
「え…。森…、森くん?」
「ブー!」
「フルネームじゃなくてもいいだろ!」
「元メンバーだからダメ!」
「なんだよそれ! 絶対おまえが勝つように仕組んでるじゃないか! もっと人数多い題にしろよ!」
「じゃあ、古今東西米米クラブのメンバー! カールスモーキー石井!」
「う…ぐ…」
「どうした? いっぱいいるぜ」
「きたねぇよ! マニアじゃなきゃ石井しかわからねぇよ!」
「あなた頭あまみずですね」
「何? 甘味酢?」
「ノン!」
「水飴?? 何の話だ」
「雨水です。ウスイ、ってね」
「コノヤロウ! 殺されてぇのか!」
「古今東西、ボクの好きなAV女優! 春菜まい!」
「はっ!? なんだよその問題!」
「答えないのならば、この場で失格です」
「ちくしょう…。えーと、うーん、及川奈央?」
「あーごめん。あんま好きじゃない」
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
 翌日、河原の土手で阿呆の惨殺体が発見された。

【ミスターX】
 これはヒドイ。

【平家翔】
 でしょ?こんな物、正気じゃ公開できないですよ。だからこそ、こうして安易な文学談義をしているわけで…。文学を題材にした文学は安直だからなるべくなら書きたくないのに…。

【ミスターX】
 メタフィクションとの決別宣言をしてからたった二ヶ月だね。あらあら。でもさ、スランプならスランプで、こんな雑談なんかせず、過去作でも載せてお茶を濁せば良かったのに。

【平家翔】
 未発表作品の蔵出しとか、過去作のリメイクならまだしも、既発表品をそのまま載せるっていうのは気に食わないんですよ。

【ミスターX】
 それならそれで、早く『環状線』とか『恋人と別れる5の方法』とか『言葉仮』とか『金婚式』とか、中絶している作品を完成させればいいじゃないか。

【平家翔】
 だからぁ。筆が動かないんですよぉ。

【ミスターX】
 インポテンツだね。ご愁傷様(笑)

【平家翔】
 笑い事じゃない!

【ミスターX】
 だから、仕事変えろって。

【平家翔】
 ヤダ!

【ミスターX】
 変えろ!

【平家翔】
 ヤーダ!

【ミスターX】
 なんてワガママな野郎だ。
 ひょっとして一週間に一回っていう更新頻度がよろしくないんじゃないか。君は以前、毎日のように新作小説を書いていたじゃないか。

【平家翔】
 あの頃は我ながら変人でしたね。

【ミスターX】
 毎日更新してみろよ。週1だからダレるんだよ。執筆作業を習慣化してしまえば筆の切れ味が鈍ることはないと思うよ。

【平家翔】
 毎日更新はもう無理です。昔ほど暇じゃありません。女性関係のこじれで。

【ミスターX】
 もうちょっといい加減な気持ちで更新してみたらどうだい。君は普段ずぼらな癖に妙な部分で律儀すぎる。作品の完成度を高めようと気張るからいけないんだ。自分の仕事に対してなかなか納得しない。良くない傾向だ。

【平家翔】
 いえいえ、やっぱり何かしら読者の感興を引き起こす作品を書きたいもんですよ。自分の考えや、これぞ自分っていう思想を表白する芸術をね。

【ミスターX】
 バカだな。作家は「偉大な識者」である必要はない。現象に対して的確な答えを導き出す「偉大な解答者」である必要はない。
 ただ、「偉大な出題者」たれ。
 問題に対して取り組むよう、聴衆に喚起せしめるのだ。同意されようが、反対されようが、反応を獲得すれば成功である。「反応」が「反響」なら尚いい。

【平家翔】
 ああ、寺山修司も「私は大きな質問になりたかった」と発言していますね。

【ミスターX】
 スランプにあがく痴態を読者に見てもらって、「才能ないって大変なんだなぁ」とか、少しでも感じてもらえれば、それでいいじゃないか。君の、何とか言うブログ、君の文才が徐々に枯れていくさまをありのまま活写したドキュメントにしてしまえ。現代版の平家物語だよ。リアルタイムの没落を読者に哀れんでもらえ。よし、それでいこう。

【平家翔】
 イヤです。

【ミスターX】
 帰れ!




この記事に対するコメント


お気軽にコメントをお書き下さい











«  | ホーム |  »