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実験小説の書評&実践
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【書評】木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』   (2017/01/19)
2017年1月20日 追記



実験する小説たち: 物語るとは別の仕方で 木原 善彦




 前回ご紹介した、実験小説・前衛文学の愛好家の必読書『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』が、「(仮)」が取れてついに発売されましたよ。

 「ついに発売」といったのは他でもない。本来ならば去年の暮れに発売されるはずだったからです。

「このブログ、本当に情報が不正確だよな。ぜんぜん発売されやしない。おかげさまで、クリスマスから今日までずっと、雨の日も雪の日も本屋さんにかようハメになった。どうしてくれる!」

 ぼ、ぼくのせいじゃありません! いろいろあったのでしょう……。お察しください。
 その代わり、価格が当初の「2500円+税」から「2200円+税」に下がりましたよ。お詫び値下げなのでしょうか。2500円でも安いくらいの内容なのに……。水声社だったら逆に2800円になっていたところです。

 それでは。アマゾンからの「配送おくれてすんません」メールと共にさっき届いた、できたてホヤホヤの新刊。完読してないのに取り急ぎレビューしますよ。



まず、目次から

はじめに
第1章 実験小説とは
第2章 現代文学の起点 ──ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』
第3章 詩+註釈=小説 ──ウラジミール・ナボコフ『青白い炎』
第4章 どの順番に読むか? ──フリオ・コルタサル『石蹴り遊び』
第5章 文字の迷宮 ──ウォルター・アビッシュ『アルファベット式のアフリカ』(未訳)
 休憩1: タイトルが(内容も)面白い小説
第6章 ト書きのない戯曲 ──ウィリアム・ギャディス『JR』(未訳)
第7章 2人称の小説 ──イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』
第8章 事典からあふれる幻想 ──ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』
第9章 実験小説に見えない実験小説 ──ハリー・マシューズ『シガレット』
 休憩2: 小説ではないけれど、興味深い試みをしている本や作家
第10章 脚注の付いた超スローモーション小説 ──ニコルソン・ベイカー『中二階』
第11章 逆語り小説 ──マーティン・エイミス『時の矢』
第12章 独り言の群れ ──エヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』(未訳)
第13章 幽霊屋敷の探検記? ──マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』
第14章 これは小説か? ──デイヴィッド・マークソン『これは小説ではない』
 休憩3: 個性際立つ実験小説
第15章 サンドイッチ構造 ──デイヴィッド・ミッチェル『クラウド・アトラス』
第16章 ビジュアル・ライティング ──ジョナサン・サフラン・フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
第17章 疑似小説執筆プログラム ──円城塔『これはペンです』
第18章 どちらから読むか? ──アリ・スミス『両方になる』(未訳)
 付録: さらに知りたい人のために
あとがき

 前回「6・11・12・18に関してはfirst ear初耳」と書きましたが、11章のエイミス『時の矢』以外は未訳だったのでほっとしました。ぼくが知ってる外国語は「ペン」「パイナッポー」「アッポー」「ペン」くらいなので、読んでなくて当然でした。

 本書の特徴としては、まず、横書きです。
「え?横書き?それってつまり、英語がいっぱい入って来るってことでないのかい。あっしは蟹文字キライでゲス」
 そう思いますよね。縦書きに英文をふんだんに引用したら、漱石の『文学論』『文学評論』みたく「タイポグラフィに特化した奇書か」みたいになりますもんね。でもご安心ください。そんなに英語成分ないです。

 それから、写真や図が豊富に使われています。
「よかたあ。ぽっくん、ひらがなしかよめないぶぁい」
 そういった方は、Shaun Tan『The Arrival』、Istvan Banyai『Zoom』Marc-Antoine Mathieu『3"』を読んでください。

 各章の末尾には、それぞれの傾向別に「こちらもオススメ!」として、だいたい3、4作品が取り上げられています。
 実際にどんな実験小説が取り上げられているのか、ずらずら列挙しましょうね。


第1章 実験小説とは
 ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』
 ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』
 アーシュラ・K. ル=グィン『オールウェイズ・カミングホーム』
 ブラム ・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』
 アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』
 アラン・ロブ=グリエ『迷路のなかで』
 W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
 フラン・オブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』
 デニス・ホイートリー『マイアミ沖殺人事件』
 レオノーラ・キャリントン『耳ラッパ──幻の聖杯物語』
 ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』
 アラン・ロブ=グリエ『消しゴム』
 テジュ・コール『オープン・シティ』(近刊予定)
 黒田夏子『abさんご』
 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
 浅暮三文『実験小説 ぬ』

第2章 現代文学の起点
 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』
 ジェイムズ・ジョイス『フィネガンズ・ウェイク』
 ギジェルモ・カブレラ・インファンテ『TTT──トラのトリオのトラウマトロジー』
 レーモン・クノー『文体練習』
 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』

第3章 詩+註釈=小説
 ウラジミール・ナボコフ『青白い炎』
 ウィリアム・ゴールディング『後継者たち』
 J・ベルンレフ『アウト・オブ・マインド』
 J・J・エイブラムズ&ダグ・トースト『S』(未訳)

第4章 どの順番に読むか?
 フリオ・コルタサル『石蹴り遊び』
 B・S・ジョンソン『不運な人々』(未訳)

第5章 文字の迷宮
 ウォルター・アビッシュ『アルファベット式のアフリカ』(未訳)
 ジョルジュ・ペレック『煙滅』
 筒井康隆『残像に口紅を』
 マーク・ダン『エラ・ミノ・ピー ──書簡小説』(未訳)
 アーネスト・ヴィンセント・ライト『ギャズビー ──‟E”の文字を使わない5万語以上の物語』(未訳)
 クリスチャン・ブック『ユーノイア』(未訳)

休憩1: タイトルが(内容も)面白い小説
 ジュリアン バーンズ『10 1/2章で書かれた世界の歴史』
 フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』
 ジェイン・オースティン、 セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』
 タオ・リン『イー・イー・イー』
 パーシヴァル・エヴェレット『アイ・アム・ノット・シドニー・ポワチエ』(未訳)
 アルフレッド・ベスター『ゴーレム 100』
 ベン・ラーナー『10:04』(近刊予定)
※ この『10:04』に関しては、木原先生ご自身の翻訳なので、『実験する小説たち』から寸評を全文引用しておきます。

 10時4分というのは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)で、主人公マーティが雷のエネルギーを使って1955年から1985年に戻る時刻。『10:04』は、「同時に複数の未来に自分を投影してみよう」と決意した語り手兼主人公が綴る小説。ゼーバルト風の知的な思索と自意識的主人公が演じるドタバタが独特な味を出している。

 ──と、ここでふと、不安に襲われました。(不安というのは「安からぬ気持ち」であり、そういう名前の女性に襲われたわけではないので安心してください)
 それというのも他ではない。このまま、取り上げられる小説を洗いざらい列挙してしまったら、著者に迷惑が掛かるのではないか……?
「アーハン? それが『実験する小説たち』で紹介される小説のすべてなのね? オーケイ。あとは読書メーターですませるわ!」ってなったらどうしよう……。
 というわけで唐突ですがおしまいです。
「えぇーーっ! つづけてよぉ。せめて第10章だけでも……。脚注の付いた超スローモーション小説に、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』が取り上げられているかどうかだけ、知りたいんだよぉ」
 ちなみに。「第10章 脚注の付いた超スローモーション小説」の「こちらもオススメ!」に、『なんクリ』は入っておりません。著者の良心がうかがえるというものです。そのかわり、円城塔『烏有此譚』も入っていませんが……。
 小説の列挙に関しては、木原先生が「いいよ」っておっしゃったら続けます。
「いいよ」
 おまえ木原先生じゃないだろ!

 しかしあれでしょう。ここまででも、実験小説好きの皆様は充分にそそられることでしょう。よだれが出ますよね。今夜はビフテキだ!



<2017年1月20日 追記>

 非常に読みやすい語り口で、ぼくのような知能指数でもすらすら読むことができました。名著『ラテンアメリカ十大小説』(木村榮一)を読んだときと同じ感触。引用も充実しており、読んでないのに読んだ気になれます。
 ついでにいうと本文デザインも秀逸。文字組みなどにも細かな配慮がなされており、あんまり売れなさそうな本にも関わらず編集者の熱意がうかがえます。
 文学部の授業でどしどし使われるべきだと思います。学生たちはこの本をぜったい面白がるし、それをきっかけにヘンテコリンな小説家がたくさん排出(≠輩出)されるといいですよね。

 作品選びの基準は、「(主として)1960年代以降の」「日本語で読める作品。または未訳の英語作品」で、「散文」の「長編」。この基準に当てはまる実験小説はほぼ完璧に網羅されており、ぼくの生きているあいだにこれ以上のガイドは出版できないと思われます。
 この種のガイド本では往々にして「あの作品が抜けている」「あの作品も入っていればなあ」などの不満が出るものですが、それもない──
「筒井康隆は?『虚航船団』は載ってるの?」
 『残像に口紅を』と『虚人たち』が載っているのでそれで充分です。
「スティーヴ・エリクソン『エクスタシーの湖』が抜けている」
 タイポグラフィ本としては他の諸作よりおとなしいので。エリクソンは名前だけ出てきます。
「フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』が入っていればなあ」
 それはぼくもそう思います。

 邦訳のない作品に関して。
 噂だけが先行し、いまいち実態がつかめなかったウォルター・アビッシュ『アルファベット式のアフリカ』。デイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』や筒井康隆『創作の極意と掟』の説明ではピンと来ませんでしたが、原文の引用とていねいな解説によってその全貌を垣間見ることができました。
 B・S・ジョンソン『不運な人々』。若島正氏が翻訳を開始したのが前世紀。いまだに出る気配がありません。採算が合わないから書肆がためらってるんでしょうね。あきらめましょう。ぼくはあきらめました。
 ウィリアム・ギャディス『JR』とエヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』は、読むのがかなりしんどそうなので、翻訳されなくてもいいか、な……。
 その他──編集者がやらかして伝記本文は失われ、注釈だけが残ったという設定のマーク・ダン『同書──小説』と、架空作家の全作品が写真や抜粋によって紹介されるウォレン・レーラー『本の中に生きる──ブルー・モブレーの波乱の生涯』が特に気になりました。こちらは翻訳されてほしい。買います。

 『シガレット』の人物相関図、あれはぼくが書きました。いま見直してみると結構ひどいな。エリザベスとオリバーを結んでなかったり、ルイスとフィービを「兄妹」ではなく「兄弟」と書いていたり……。学生たちに馬鹿にされそう。やっぱり授業で使うのナシで。



この記事に対するコメント

■ ありがとうございました!
 大塚さん、あっという間にお読みいただき、お褒めのレビューをありがとうございます。『シガレット』の人物相関図もありがとうございました。ウリポ好きならではの幾何学的曼荼羅が素敵です。刊行が少しずれ込んだ理由の一つは、お察しの通り、網掛けとか、文字の組み方やフォントがややこしかったことでした。
 それから、拙著の中で挙げられている作品リストの転載については、できれば、もうしばらくの間はお控えいただけるとありがたいです(今、ここの記事にお書きになっている分はそのままで構いません)。「どんなのが紹介されているのだろう?」というご興味から潜在的読者にお手にとっていただけるかもしれないので。
 大塚さんのとりぶみレビューも楽しみにしております。変わった作品をお読みになったらまたご紹介を読ませてください。ではまた!
【2017/01/21 08:00】 URL | きはらよしひこ #-


■ こちらこそありがとうございました…!
 率直に言って、最高の本でした。繰り返し繰り返し繙くことになりそうです。現に今日も再読しています。
 こだわり抜いた文字組みやレイアウト、ネタバレに対する配慮、感嘆しました。無人島に持っていく本にランクインするくらい充実しています。完璧です。
 このような完成度の高い本に、微力ながら貢献できたことを誇らしく思います(ただまあ、すこし情けなくもありますが……。21世紀のこのご時世に手書きかよ!みたいな)。

 作品リストの転載に関しましては、たいへん軽率だったと反省しています。実は第9章まで書き写し作業を進めていたのですが、「こりゃいかん」と思い到り、あわてて作業を中断しました。
 ──でも、ある程度は紹介しておいた方が、これから購入を考えている人の一助となるのではないか。目次だけ見て「なーんだ、18作品しかないのか。筒井康隆すら載ってないんじゃたかが知れてるな!」と思われては残念……と考え、「休憩1」まで転載させていただきました(実際、monadoさんはB・S・ジョンソンが抜けていると思っていたようですし)。
 いずれにせよ、たいへん失礼いたしました。掲載分は残してよいとのこと、恐悦至極、ありがとうございます。

 本書は実験小説好きのためのガイドにとどまらず、実は「普段読書をしない人にこそ訴求できるのではないか」と個人的に思っています。
 世間一般の人にとって小説は「映画やドラマの原作」であり、いわば「シナリオ台本」みたいな認識だと思うのです。語られるストーリーのみが重要なので、他のメディアで消費すればじゅうぶん、と。
 しかし、そういった人たちが『実験する小説たち』にふれたとき、どうなるでしょう。「え。今の小説ってそんな面白いことになってんの。じゃあ、読んでみよっかな」という風になるのではないでしょうか。本を読む習慣がない人にこそ『実験する小説たち』が届くことを、本気で願っています。

 長くなりましたが、まだまだ言い足りないくらいこの本にゾッコンです。
 発売前から期待に胸ふくらみ、ハードルが棒高跳びくらい高くなっていたのですが、その期待を軽々こえるほどの、想像以上の出来でした。
 本当におつかれさまでした!

 ──追伸。『ハザール事典』の「本にだって男性版と女性版があります」ニヤリとしました(笑)
【2017/01/21 19:10】 URL | 大塚晩霜 #-



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