とりぶみ
実験小説の書評&実践
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特別講義「Nについて」   (2007/09/13)
 2004年、秋。のちに散文ブログ『ちりぶみ』で同人となるこさめさんと、毎日のように電子メールで文通をしてました。そんな折り、何かのきっかけでこさめさんのためだけに作品を書くことに相成りました。何かのお礼だったのか、もしくは弱味を握られたのか、はたまたスケベ心が発動したのか、今となっては定かではないのですが、とにかく、一般公開ナシの作品をわざわざ書いたわけです。それがこれ、『特別講義「Nについて」』です。
 一般公開ナシ=こさめさんだけに捧げたプレゼント。なのになぜ、今このタイミングで一般公開をするのか。それは、シトラス系の香り漂う清い名前の女の子から「実は『とりぶみ』読んでます」と衝撃の告白をされた際に、うっかり「こさめしか読んだことのない作品があるよ」と故意に口を滑らせてみた所、軽く嫉妬されたからです。まあ、世間ずれしていないこのボクちゃんは「読んでます」というのが社交辞令だとは気が付いていませんし、もちろん「嫉妬された」というのはモロに勘違いしてるのですが、それにしたって、たった一人に読ませただけで葬るにはあまりに惜しい、そろそろ世に出すか、というわけで、こさめさんに無許可で蔵出しする次第であります。
 本当は新作が書けなかっただけなんだけど。(秘密にしとけ!)

 ──しかしまあ、なんでこさめさんに対してあんなサービス満点なことをしたんだろ。好きだったのかな? 残存しているメールから推理しますと、どうやら私が「なんか書いていいですか。今なら筆が走ってて書けそうな気がするのです」という妙な心境になった模様。それで、当時教師を目指していたこさめさんに「俺が先生になったらどんな授業するか聞きますか?」とたずねた所、三段活用「聞きます!聞きたいです。聞かせて下さい」とのことだったので、大塚先輩の授業がどれだけつまらないかというのを力説するために執筆したようですね。はい。大元の理由は結局わかりません。。。
 ご託はもういい。どうぞお楽しみ下さい。2004年9月26日の作品です。


(教師、中学校の教室に入室)
 えーコンニチワこさめさん。授業を始めます。コンニチワ。
 はい、コンニチワ。…コンニチワ? コンニチワ! 声が小さい! もう1回!
(教師退室。再入室)
 えーコンニチワこさめさん。(コンニチワー) うんうん、いいヨいいヨー♪ それでは授業を始める! 起立! 気を付け! 仁礼! 着席!

 えー、悲しいお知らせでーす。あまりにもテキトーに授業をしてきたため、指導要領を大幅に消化してしまいましたー。大人の事情なのでー、みんなにはよくわからないと思うがー、ちょっとハイペースに教科書を読み進めすぎたってことだー。ですから今日はね、ちょっと脱線して、ローマ字の「N」についての授業! よろP苦!
 日本語の発音をローマ字で表記する場合、子音と母音を組み合わせるのが普通です。こら沼田くん、母音と聴いてニヤニヤするんじゃない! 殺すゾ!
 えーすいません言い過ぎました。「転がすぞ!」の言い間違えです。保護者には言い付けないで下さいね。
 子音というのはー、死んだ原因ではなくー、kとかsとかtとかね。母音というのはー、a,e,i,o,u、演劇部が屋上で叫んでいる文言でアール。いーね?
 これを組み合わせる事でー、ローマ字表記は成り立ちますー。たとえば「ka」「si」「si」「bu」「ri」ね。
 より正確な日本語の音を表す場合にー、「si」を「shi」、「tu」を「tsu」、「ti」を「chi」と表記する場合もある。「ka」「shi」「tsu」「chi」「shi」などであるー。ハイー、意味は聴かないー。お母さんにも「今日はこんな授業だったよ!」って報告しないー。もちろん他の先生にもー。いいか、これは先生とみんなとの秘密の約束だよ! わかったかい大野くん。君が1番チクりそうだ。
 なぜ、「chi」とか書くかというとー、ローマ字表記で「si」「ti」「tu」「hu」と書いてあった場合ー、実際の音は「すぃ」「てぃ」「てゅ」「ふゅ」となるからであるー。だからたとえば、「hujikake」と書いてあるとー、外国人は「フュジカケ」と読むー。たいへんオカシー。
 それからー、半母音を含むものもあるー。こら石井くん、以下同文! 半母音というのは、yもしくはhで、これを含むと「shu」とか「ryo」とか、小さいやゆよ、「拗音」になる。拗音、これはテストに出ないので安心して書かないで良いー。

 さてここからがお題目、本日の授業。前フリ長くてゴメンな! 今回問題にするのは、撥音、はねる音すなわち「n」である。
 みなさんは「谷亮子は美しい」という文を英語に翻訳する時、どうしてるだろうか。「鬼畜米英の紅毛語など使えません」とか「わたしチョー日本人だしー。英語とかいってリアルにカンベンなんだけど~★」とかいう頭の悪い言い逃れは認めません。中学生なんだから書けるだろ~?
「せんせー」
「はい、出雲くん」
「英語が苦手とかそういうのじゃなくて、その文は倫理の面から書けません」
 なに、そうか。それもそうだな…。じゃあ、出雲くんは「谷亮子は強い」と書きなさい。

(10秒経過)

 「美しい」の英文綴りがわからない人、「byuuthifulu」ですよ。

(30秒経過)

 さて、書けたかな。各者いっせいに答えをドン!
「Ryoko tani is byuuthifulu」
「ryouko tani is byuuthifulu」
「Ryohko Tani is byuuthifuru」
 はい、みんなだいだい合ってますね。英語の授業じゃないんで、「viewtiful」とか「beautiful」とか書いてしまった人も今回はおとがめなしです。
 この国語の授業で問題とするのは、「谷」。これです。「亮子」も複雑な問題を含んでますが、今回は「谷」で。
「先生! それじゃ谷プラス亮子だと大問題ですよね!」
「谷だけでなく谷亮子全体について学級会をひらきましょう!」
「つまり、ヤワラちゃんについての危険思想を公にして下さい」
 うるせえ! 授業が進まねえだろ! おまえは廊下に立ってろ! おまえはバケツに水を汲んでこい! おまえはぞうきんをすすげ! おまえは絞れ! おまえは拭け! おまえは停学、おまえは毛虫!
 はい。みなさんは「谷」を「tani」と書きましたが、しかしそれでいいんでしょうか。「ta(た)ni(に)」と書いたつもりでも、他の人にはこの「n」が「ん」と見えるかも知れません。「n」と「ん」、表形の点においても似ています。「ta-n-i」だと、単位、だいぶ事情が変わってきます。
 はいそこ、屁理屈だとか言わない。屁だなんて、下品な言い方して。おなら理屈と言いなさい。それに、考えてごらんなさい。「ア~、単位がほしい!」と書く時にはどうしますか。「ta(た)n(ん)i(い)」と書いたつもりでも、「ta(た)ni(に)」と誤読されるかも知れない。「ア~、谷がほしい!」って、ずいぶんビザールな求愛へと化してしまいますよ?
「先生!」
 はい、桑江くん。トイレかな?
「ワープロでは、「ん」を入力する時、「n」を2回押します」
 つまり、「nn」ということですね。
「そうです。だから、「ta(た)nn(ん)i(い)」と書けばいいのではないでしょうか」
 なるほど。しかし甘い! それだと、「ta(た)n(ん)ni(に)」とも読めます! たんにがほしい! あんまり活躍のない単2乾電池が急遽必要となり、磯野家は大慌て!というシチュエーションになりかねません。大学生の切実な魂の叫びではなくなり、タマしいぬるい茶番劇におとしめられる。
「バーカ。だからおまえは留年するんだよ」
 コラ佐山くん、言い過ぎだぞ。しかもそれは未来の話、舞台設定は中学校。
「あ。すんません!!!!!!!!!111」
 なんで大野くんが謝るの!? しかも、ちゃんとシフトキーを押せっての! 最後の方、「!」が「1」になってるよ!

 えー、授業に戻ります。単2は桑江くんの案を採用して「tannni」と表記しても良いかも知れませんね。でも、「谷」と「単位」はどうなっちゃうんでしょうか。
 それから、例えば「頻用」は? これをローマ字にする際も、「n」はクセモノです。では近藤さんと熊谷くん、書いてみなさい。
「hinyou」
「hinnyou」
 ハイよく書けました。どちらも頻用と読めますね。しかし、「泌尿」とも「頻尿」とも読めます。さあ、困った困った。
 さーいよいよ大詰め。こういう場合、先生はどう書いてるか知りたい? 知りたい人は、拍手!
(まばらな同情的拍手)
 よーし、じゃあ教えちゃうよ!(すごく嬉しそう)
 私は、アルファベットの大文字小文字の違いを利用して書き分けています。具体的には、

 taNi(谷)
 tanNi(単2)
 tanI(単位)

 hinYou(頻用)
 hiNyou(泌尿)
 hinNyou(頻尿)

というわけです。わかりましたか。どうです便利でしょう。みんなもレッツトライだよ!
「先生」
 はいこさめさん。どうです、今日の授業は楽しかったかな?
「期待しすぎました。もっとおもしろいと思ってました」
 そうか、喜んでもらえてよかったよ! それじゃ今日の授業はここまでだ。起立!(以下略)



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