とりぶみ
実験小説の書評&実践
【書評】ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』   (2014/08/08)
トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫 赤 212-1)トリストラム・シャンディ 上 (岩波文庫 赤 212-1)
(1969/08/16)
ロレンス・スターン

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トリストラム・シャンディ 中 (岩波文庫 赤 212-2)トリストラム・シャンディ 中 (岩波文庫 赤 212-2)
(1969/09/16)
ロレンス・スターン

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トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)
(1969/10/16)
ロレンス・スターン

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 暑中お見舞い申し上げます。パソコン弔いに伴いしばらく更新を停止していましたが、お待たせしました、お久しぶりの書評です。前回うっかり予告してしまった通り『トリストラム・シャンディ』を取り上げます。
 「奇書」と言えば日本では夢野久作『ドグラ・マグラ』ですが、世界的にはこの『トリストラム・シャンディ』こそが奇書の中の奇書、キング・オブ・奇書。建築で言えばサグラダファミリア、フルーツで言えばドリアンに匹敵する存在です。
 私がこの作品を読んだのはもう10年ほど昔になります。いっちょ書評をかますなら再読するのが筋なんでしょうけど、お米を研いだり歯磨きをしたりYoutubeを観たりソリティアで時間を潰したり色々と忙しいので、記憶を頼りに御託を並べさせていただきます。誤りがあるかも知れませんのであらかじめご了承ください。


1.作品の成り立ちなど基本事項
 正式名称『紳士トリストラム・シャンディの生活と意見(The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman)』は、小説黎明期の18世紀にイギリスの牧師ロレンス・スターンが著した長編小説です。スターンは牧師らしからぬ破天荒な人物だったらしく、『トリストラム』で大ブレイクを果たしてからはロンドン社交界の寵児となり、晩餐会に招くにも2週間先まで予約がいっぱいだったとか。さしずめ一休さんとか逮捕前の織田無道みたいな人だったようです。
 小説は全9巻(岩波文庫版は上中下の3分冊)。ただし全巻が一挙に刊行されたわけではなく、折り目正しく定期的に1冊ずつ上梓されたわけでもありません。スターンの気が向いたときに2巻ずつ刊行されました。気が向かないときは刊行しませんでした。何となく書いてました。私のブログと一緒です。
 『トリストラム・シャンディ』と言えば奇書中の奇書であり、世界文学史に燦然と輝くイカれた小説であり、おっかないイメージがありますが、まあ、「一休さんが『東海道中膝栗毛』を書いたんだ」と思っていただければ良いかと思います。


2.どのあたりが奇書なのか
 「奇書」とは何か。これをまず定義するのが骨の折れる作業です。中国の四大奇書なんかは確か「(ただ単に)長い」という意味だったと思いますし、世にも稀な書籍という意味で言えばロバート・サブダの超飛び出す絵本とか佐藤雅彦『任意の点P』なんかも奇書に含まれるでしょう。しかしこのブログで奇書と言えば「変わった小説」ということでよろしくお願いしたいところ。「奇書=変わった小説」という意味で、どうか一つ。──あら、あんまり骨折れませんでした。打撲程度。
 で、くだんの『トリストラム』ですが、どのあたりが変わっているか。まず、自伝の語り手である主人公トリストラムがなかなか生まれてきません。自伝であるに関わらず、両親が「私というものをしこむ」場面(1-1)から始めて、産婆の話(1-7)、唐突に挿入される献辞(1-8)、ヨリックという牧師の話(1-10,11,12)、胎児の洗礼に関する学術的質問書(1-20)、父と叔父トウビーの築城道楽──などなど、脱線に次ぐ脱線によって話はなかなか進行しません。──トリストラムは全9巻のうち第3巻でいつの間にか生まれており、第4巻から本格的に活躍かと思いきや、第4巻冒頭3分の1は「スラウケンベルギウスの物語」という全然別の物語。万事この調子です。文体もハチャメチャで、アスタリスク(*)による注釈やダッシュ(──)の乱用、読者との会話など、縦横無尽やりたい放題。どうしてこんなに無政府状態な文章なのかと言うと、作者スターン曰く「ペンが私を支配するので──私がペンを支配しているわけではありませんから」(6-6)「私はまず最初の一文を書きます──そしてそれにつづく第二の文章は、全能の神におまかせするのです」(8-2)だそうです。つまり深いことを考えずに思った通り書いているということですね。いわば好きなときに好きなように筆を走らせる、と。私のブログと一緒です。
 無茶をしている箇所は他にもたくさんあります。『トリストラム』で最も有名なギミックであるヨリックの死を悼む黒塗りのページ(1-12)。死んだはずのヨリックが大活躍(※ただしこれは錯時法であり、作品内の時間の流れと矛盾するものではない)。「私の主人公たちが今は全員私の手を離れている──つまり、はじめて私もちょっと一休みの余裕を得た」と言ってとんでもない場所に挿入される「作者自序」(3-22)。「私のこの著作のゴチャゴチャした象徴」として提示される墨流し模様のページ裏表(3-36)。欠落している方が良いという理由で白紙となっている章(4-24)。読者に落書きさせるための白紙のページ(6-38)。作中で主人公がどのように動いてきたかを表す折れ線グラフ(6-40)。語り始めるとすぐ横槍が入り、都合5回も中断された挙句、結局どんな話なのか不明なまま終了する「ボヘミア王とその七つの城の話」(8-19)。「18の章」と「第19の章」にすり替えられる第25章(9-25)。
 如何でしょう。ざっとこれだけ見ても相当に風変わりな小説であることがご理解いただけるかと思います。小説の黎明期にいきなり小説を破壊した、と。メタ・フィクションの元祖にして王道。元祖が最高峰であるのは儘あること。バッハのフーガ然り、イーノのアンビエント然り、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのシューゲイザー然り。


3.先行テクスト
 さて。小説の黎明期にいきなり小説を破壊した『トリストラム』ですが、突然変異的に誕生した畸形児なのでしょうか。お坊さんの頭に虫が湧いて忽然と出来上がった怪作なのか。答えは「いいえ」。
 作中でも度々言及されますが、スターンはラブレーやセルバンテスの影響下にあります。あとスウィフト。『トリストラム』は一見ハチャメチャなテキストで唯一無二のように思えますが、実は『ガルガンチュアとパンタグリュエル』『ドン・キホーテ』『ガリヴァー旅行記』の流れを汲む作品なのです。伝統に則っているわけです。衒学趣味による百科全書的性格・下世話なユーモア・戯曲や散文詩の包含──バフチンか誰かがメニッポス的風刺だとかアノミーだとかカーニヴァル文学だとか定義していました。たぶん(ここまで書いてから自分の放言に急に不安になったので色々検索してみました。メニッポス的風刺やアノミーは私の認識とIT業界の認識に軋轢が生じており少し涙目です。あと、アノミーじゃなくてアナトミーっぽいです。それから、四大奇書の奇書が意味する所をついでに調べてみましたが、正しくは「世に稀なほど卓越した書物」だそうです。全然ちがった。死にたい)。


4.後世への影響
 『ユリシーズ』の書評をした時に一言しましたが、『トリストラム』の自由奔放な語り口は「意識の流れ派」に影響を与えました。特にヴァージニア・ウルフは『トリストラム』こそ世界最高の小説であると絶賛しています。
 あとは我が国の夏目漱石にも大きな影響を与えています。漱石は『トリストラム、シャンデー』という評論によってスターン作品を日本に初めて紹介していますが、その中でスターンの文章を「結構なし、無始無終なり、尾か頭か心元なき事海鼠の如し」と評しています。これは『吾輩ハ猫デアル』上編自序の「此書は趣向もなく、構造もなく、尾頭の心元なき事海鼠の樣な文章」と照応します。『猫』は『トリストラム』の手法を踏襲していると言えましょう。
 それから幾多の喜劇作家も大きな影響を与えられています。モンティ・パイソンのスケッチの配列の妙はまんま『トリストラム・シャンディ』の脱線ですし、たまたまかも知れませんが三谷幸喜の「赤い洗面器の男」は「ボヘミア王とその七つの城の話」と同じ遣り口です。


5.作品といかに対峙するか
 『トリストラム』は文学史の年表にも載るような偉大な作品であり、奇書中の奇書という評価が定まっています。プロットは無いに等しいし読みにくい文体だし無闇矢鱈とペダンチックです。しかしビビる必要はありません。読まなければいいのです。また絶版に追い込めばいいのです。
 私は10年前、各地の古本屋を巡ってこの小説を手に入れました。そして遅読にも関わらず貪るように読み進め、至福の時を過ごしました。偉大な古典文学として読まず、学のある人の与太話として笑い転げればよろしい。
おしまい。

 さて、今回の書評はいかがでしたか。つまらなかったと思います。どうもうまく書けません。『トリストラム』を読んだのがかなり昔だったのと、パソコン買い替えに伴ってワープロソフトも別物となったためキーボードの上を指が軽やかにタップダンスしません。
 ──しかしまあ、我ながらなんつう物を取り上げているのだ。
『トリストラム・シャンディ』
『ユリシーズ』
『文体練習』
『シガレット』
『ジャック・ルーボーの極私的東京案内』
『人生 使用法』
 まともではない。次回はもうちょっとまともな物を取り上げたいものです。
 あ、それから。この本を書評してほしいというリクエストがありましたら、こちらのコメント欄まで是非ご一報くださらないでください。リクエスト募集してないです。していません。このブログを読んでいるようなお歴々は『イーリアス』『オデュッセイア』『マハーバーラタ』を読破して比較してくれろとか、死刑宣告にも近い無茶なリクエストをなさりそうなので。



この記事に対するコメント

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たくさんの人に教えたくて、こうして書きます。
母子家庭で9歳の息子がいて、何も買ってあげられなかったんです。
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本当に知りたい人だけに教えます。
知りたい人は、emi_himitu@yahoo.co.jpにメールしてください。
すごい秘密をメールもらえた人だけに教えます。
【2014/08/09 16:48】 URL | nirena #27Yb112I


■ 
おまえもファッキュー。
【2014/08/11 22:14】 URL | 大塚晩霜 #-



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