とりぶみ
実験小説の書評&実践
Latex Solar Beef[censord]   (2007/08/30)
(もしくは八郎の娘の好物)


 アレが大好物。私はアレを×××いっぱいに×××るのが大好き。
 アレが何かって? アレとは、バナナ…ではなく、キュウリ…ではなく、ナス…ではなく、ニンジン…ではなく、大根…ではなく、苦瓜…ではなく、アイスキャンディー…ではなく、ロリポップ…ではなく、ソフトクリーム…ではなく、きりたんぽ…ではなく、つくね…ではなく、ウインナー…ではなく、ホットドッグ…ではなく、フランクフルト…ではなく、牛肉の心臓…ではなく、頭を伸ばす亀…ではなく、毒牙で噛みつく蛇…ではなく、コックコックと首を上下させるニワトリ…ではなく、変幻自在にうねる象の鼻…ではなく、背中を這い回る毛虫…ではなく、土の中を潜るミミズ…ではなく、蜂がお尻から出して人を刺す針…ではなく、髭の生えた龍…ではなく、幻の珍獣ツチノコ…ではなく、控え目にくっついている足…ではなく、腫れ上がった指…ではなく、下にくっついている舌…ではなく、海のギャングのウツボ…ではなく、ぼってりとしたナマコ…ではなく、アワビを切り刻む包丁…ではなく、斬る刀…ではなく、断ち割る剣…ではなく、刺すナイフ…ではなく、突く槍…ではなく、殴る警棒…ではなく、叩く棍棒…ではなく、打つ角材…ではなく、ピュッピュ飛ぶ水鉄砲…ではなく、放たれる矢…ではなく、撃つピストル…ではなく、一掃するマシンガン…ではなく、発射するバズーカ…ではなく、照射されるレーザービーム…ではなく、爆発するダイナマイト…ではなく、落とす爆弾…ではなく、突進する魚雷…ではなく、飛んでいくミサイル…ではなく、母なる宇宙に向けて打ち上げられるロケット…ではなく、夜間飛行に離陸するジャンボジェット…ではなく、空に咲く花火…ではなく、ローセカンドサードトップオーバートップへと徐々に高まるシフトレバー…ではなく、夜の交通整備にぶん回される真っ赤なコーンライトや、三角コーン…ではなく、闇を拓く懐中電灯…ではなく、血気の走る電信柱…ではなく、感度良好のアンテナ…ではなく、バイブレーター機能のある携帯電話…ではなく、コンセントに差し込まれるプラグ…ではなく、カーッと熱を出すランプ…ではなく、先端に火の点いた松明…ではなく、白い煙を吐き出すタバコ…ではなく、吸えば液体が出てくるストロー…ではなく、勢い良く水を噴くホース…ではなく、畑に水を撒くじょうろ…ではなく、ネコが目を背けるペットボトル…ではなく、乳酸菌飲料の入ったビン…ではなく、口に含むと歯磨き粉の出る歯ブラシ…ではなく、ピュッと点す目薬…ではなく、薬液を注ぎ込む注射器…ではなく、タプタプした薬を湛えた試験管…ではなく、黒板に白い放物線を描くチョーク…ではなく、すべすべした白い紙の表面を撫でる、先っぽの黒い鉛筆…ではなく、沼の深さを測る定規…ではなく、ねじ穴にねじ込むドライバー…ではなく、貞淑の氷を砕くアイスピック…ではなく、筋骨逞しい大工が板に穴をこじ開けるキリ…ではなく、枝を突き出した大木…ではなく、巨大な石柱ではなく、真っ赤な東京タワー…ではなく、文化人の反対を押し切っておっ立ったエッフェル塔…ではなく、風向き次第でどちらへも靡く旗…ではなく、尻軽がスタンプラリーで集めるハンコ…ではなく、伸び縮みするチューブ…ではなく、管楽器奏者が吹く笛…ではなく、管の中に唾液の溜まるラッパ…ではなく、歌手が口を近づけるマイク…ではなく、天に掲げて掻きむしるギター…ではなく、頭の大きなこけし…ではなく、ホームランを量産するバット…ではなく、ホールインワンを決めるゴルフクラブ…ではなく、ポケットに落とすために球を撞くビリヤードのキュー…ではなく、Bullめがけて投げ込むダーツ…ではなく、次の走者に手渡すバトン…ではなく、妙に堅いスティック…ではなく、下肢を支えるステッキ…ではなく、黒光りする革靴…ではなく、差す時が濡れる時の傘…ではなく、錠にピタリと合う鍵…ではありません。アレはアレです。
 私は××くんと××な××××を××した。それは、本当に××な×のする××××××。彼の熱い×はナメクジのように××り、私の×や×××の上を××××り、××の奥まで××してくる。××を××××××と××られてくすぐったい。
 「××××・××××」という×××映画がある。××の×に×××がある女の話。彼女の気持ちが私にはよくわかる。××××を××るための×に、××××以外の、××××のを、××××なんて。なんて×××××ことだろう。なんて×××××だろう。
「××。××よおまえの××の××」
 ××くんは×を×し、いつくしむような優しい×で私を××めた。私は彼の×に×を×し、うっとりとその優しい×を××げた。×をとろとろに××されて、×も××げに×××と××ける。ふたりの×と×には、×を×××っていたなごりが、その××を残念がるような××が、×××のように××が×を×けた。
 私はもう、××くんを××たくて××たくてたまらない××に×××れた。
「私も、×××よ…。おいしい×××、××させて…」
 私は×××の上に彼を×××らせ、×××の××××を××した。モゾモゾと、×××の中から×××を×××そうとした。もう×××くなってるのが、××でわかる。
「すっごく×い…」
 ×が×××しちゃいそうなくらい、×いの。×××、×××と××ってるのがわかる。××を××たみたいな、とても××られないような、××の××。私の××××に××と××××いてくる。ああん…早く××××いたい。
 ××くんも×××ない様子で、×××を×××ごと一気に××した。××になる、彼の×××。その××に、私の×××が×××××ていた。×××の×が××に××たような、××い×××××な×××。×××にくっつくように××した×××。
 私は××くんの×××××をぢっと見つめた。×××××も私をぢっと見つめてきた。××を××××××××あげると、××のような××がますます×くなっていく。××××んだ。××××から、××して×××く×っていくんだ。
 もう、たまんない
「×××」
「あっ」
 小さな×××イ×を×げる××くん。やだ、私、×の×の××な××、××に×れちゃった…。
 引き続き、×を×で優しく××してあげながら、私は××に××をした。×××みたいな×が、××××にフィットする。××××と××××を××るよりも××する。まるで、×と×みたいに、×る×と××××られる×がピッタリ××感じ。つるつるした××が、×に×××いい。
 そのまま×××××××ってあげる。×××とした×××は、××の××。私のやらかい×××にビクビクと××してる。なんか×てきた。××××。×な×。こんなの、ほんとは××××だめだよね。だって××××する×から×てきてるんだもん。それを××××うに××××ゃうんだから、私ってばすっごい×××…。
 私、今、どんな×××な×をしてるんだろう。だって××××お××××を×に×××るし、それで××××ってる! ××くんに××されないかな…。×××いで、彼の××を×××った。そしたら、彼も、××××さに×を×××ていた。×××ないぞっ☆ お互いに、こんな××は×の×には××られないと思う。こんな×、××に見られたら××××くって×××ゃう。お母さん、娘のこんな×を×たら、どう××かな…? そう××と、×い×してるみたいで、ますます××して来ちゃった。×××に×××が××してきて、×を×××て×××ない×になってる感じ。××くんは、そんな私の××な××を××××うに見つめている。すっごく××××い…。
 でも、だって、××××んだもん。この×××××××××んだもん。私は××深くまで××えた。××××に×××っと××る×の×の×××。×の×で×××い×が×ってる。×××××××してやると、×××はますます×く×く×くなって、×の×を×××る。私の×××で××××××になった×××は、×を×られたように××××。
「××××。××××よぉ…」
 ×きた×××××を×××××××ながら、私は×の××んだ×で××くんを×た。彼も××そうな×で私の×××××を××っている。××××いんだね。私も××××よ。
 ××くんの××は私の×××に×××ていた。あんまり××××からついつい×××が××されちゃう。私ってば××××みたい。もしくは×××。大人の女とは思えない××××は、私自身にも××だった。私って、こんなに××××だったんだぁ…。
 もう、×××××を××しちゃうくらいに××××す。××××××××、××な×を××ながら、×を××させる。×が××らないように×の×まで。××ることならこのまま×××××××たいくらい。
「×××。×××。クプ、クプ。×××、×××、×××、×××」
 ×を×すと、××××っと×を×く。ああ、なんて××××だろ。もう、××××なっちゃいそう…。


先生にほめられる良い読書感想文の書き方&例文は使用盗用コピペ自由です   (2007/08/23)
 もうすぐ夏休みも終わり! みんな、夏休みの宿題は済んだかな?
 あら、だぁれ?? 古い新聞を引っぱり出して、今さら天気を調べてる人! 絵日記のための偽装工作かしら。がんばってね★
 でもさ。絵日記もめんどうだけど、夏休みの宿題の何がイヤって、何と言っても、読書感想文だよね。まだ書いてないお友だちもイッパイいるんじゃないかなぁ? え、なぁに? あ、そう、君は夏休みが始まってすぐに書いたんだ。すごいねぇ。
 読書感想文って、夏休みが始まった直後に書くにしろ、夏休みが終わる直前に書くにしろ、決まって月末に書くもんだよね。月末の棚卸しに忙殺される小売店と同じだね。え、「棚卸し」の意味がわからない、って? だいじょうぶ。きっと君は将来、宇宙飛行士なんかにはならず、イヤでも棚卸しをするようになるから。きっとだよ、その顔なら。
 さて、じゃあこれからお姉さんが上手な読書感想文の書き方を教えるぞ。小学校低学年・小学校高学年・中学校・高等学校の四つのレベルに分けて、それぞれコツを伝授するね☆
 しかもなんと、この記事の末尾には、大奮発、典型的な読書感想文の例をババンと掲載! どうしても文章を書けないお友だちや、書く時間がないお友だち・余命がないお友だちのための救済策だよ。遠慮せずどんどん書き写してね。
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1997/8/13   (2007/08/16)
 昨日今日何があったのかわからないような夏休みを送っている人間がのうのうと生き続けていて、君のような真面目で勤勉な男がその歳で逝ってしまう…。
 世の中というのは不公平に満たされていて、僕は悔しくてしようがなく、日々怠惰な生活を送る自分に罪悪感・嫌悪感すら抱いてしまう。君が死んだのは未だに信じられなく、それは一生続くだろう。信じられない。
 いつかみんなで飲みたい。
 君の試合を見に行きたい。
 同窓会で思い出話に花咲かせたい。

 君にあげた線香は、すぐに消して下さい。
 今度はあまり無理をしないようにな…。

 君が倒れた翌日、1997年8月14日にて。


P.S. 年賀状を楽しみに待っている。






 流れ作業、まるで機械仕掛けの焼香。
 心こもらない、虚実の通夜。
 人の死をも金に換える商魂、意味無き返礼品。
 涙を絞り出すために働くラジカセ、まるでショー。
 葬儀屋、まさに冥府への案内人。
 悲哀の仮面の下は笑い狂う鬼の面。

 俺の友達はお前達の商売道具なのか…?

──8月17日の葬儀の印象。



One More Day   (2007/08/16)
One more day
They said we'd be home for Christmas but I'm still here today
One more day
I went to see the first lieutenant, he said shut up and wait
One more day, no word

もう一日
あいつらは「クリスマスには帰れる」と言ってたけど、俺は今日もここに残ってる
もう一日
俺は中尉に会いに行ったが、黙って待ってろと言われた
もう一日……、言葉がない

──Todd Rundgren "One More Day (No Word)" より







 その場所にそびえていたのは、敵地との境界線近くに組まれた高見やぐら──やぐらと称するよりもむしろ堅牢な鉄塔と称すべき建造物だった。
 地上三十メートルに位置する詰め所はアパートの一室のようになっている。簡易キッチンがあり、簡易トイレがあり、冷蔵庫・エアコン・電子レンジ・掃除機・洗濯機・無線機があり、ベッドがあり、見張り台には机とイスがある。テレビはないが、その他の生活器具は万全。
 数百メートル先の川を渡ると敵の領地。その向こうは見晴らしの良い平原、さらにその奥に丘陵。背後自陣には森。
 男はそこでたった一人の偵察任務に従事している。敵影が接近したら本部に連絡する役目だ。赴任してから、まだ三日。
 交代人員がいないため、昼夜問わず番をする。食事を作りながら見張り、食事を食べながら見張る。排泄をしながら見張り、自慰行為をしながら見張る。彼の一日は全て見張りもしくは見張りながらの行為に終始する。
 ただし、一瞬も気を抜けないとは言っても、睡眠は取らねばならない。無音震動アラームを三十分間隔でセットし、座ったまま合計三時間の睡眠を取る。
 まともな睡眠ではない。三時間の間にアラームが三十分間隔で作動するということは、眠りを六回も破られる計算になる。これでは身が持たない。赴任三日目にして彼はもう寝不足だ。
 しかし戦地の真っただ中。最前線を守る責任感・死と隣り合わせの緊張感。深い眠りに落ちればそれが即ち死の眠りとなる可能性が多くあった。それに、数日に一度、時間を定めずに本部からの呼び出しがある。しっかり職務をまっとうしているかどうか確かめるための抜き打ち検査だ。この時、ちゃんと応答できなければ厳罰が与えられる。敵が迫っていようがいまいが、どちらにしろ持ち場を離れられないのだ。
 もしも敵の接近を見逃したら彼は逃げ遅れて命を落とすだろう。そしてもし、彼が気づかぬ内に敵が前線を突破して我が陣地に進行したら自軍は甚大なる被害を受けるだろう。彼の責任は重大である。
 彼は今日も双眼鏡で地平線の辺り、山の稜線の辺りを睨んでいたが、敵の姿はちっとも見えなかった。ほっとする。ほっとすると同時に退屈だ。今日もか。今日も変わり映えの無い日か。敵が攻めて来ず、突然の無線連絡も無いのならしっかり眠れば良かった。
 彼は双眼鏡から目を離し、部屋を見回しながら想う。一人用の狭い部屋だが、ああ、せめてもう一人仲間がいてくれれば。順番に寝ずの番に立てば交互に充分な睡眠が得られるだろうし、話相手も得られる。
 ああ。せめてもう一人仲間がいてくれれば。前線に配備された偵察係が自分だけでなかったなら。これほどの退屈を感じずに済んだだろう。
 日が高くなった午前、彼は見張り台を離れ、無線機で定期報告の暗合文を発信した。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 それから一週間変わり映えの無い日が続いた。仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 それはあきらかに徒労だった。彼はこれまでの人生で、この一週間ほど無駄な時間を過ごした経験は無い。無為の日々。しかし危険な任務。彼の神経は次第にすり減っていった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 いつ敵の襲来に見舞われるか判らぬ恐怖と不安。緩まぬ事の無い緊張感と併行して流れるやるせないまでの倦怠感。前線に派遣されてから二週間。どっと疲れてきた彼は、アラームの鳴動間隔を三十分ごとから一時間ごとにセットし直した。
 物資は毎月ヘリコプターが落として行く。落下傘にくくりつけられた荷物がやぐら付近の地上に降下する。一ヶ月分の食料品以外にも、歯磨き粉・石鹸・トイレットペーパーなどの日用品や、電化生活を支える巨大な蓄電池、その他男が要求する物品の数々が遺漏無く届けられる。
 遺漏無く? はたしてそうだろうか。タバコはたんまり届いた。双眼鏡を固定する三脚架も届いた。しかし、要求した物品のことごとくが届いたか?
 否。テレビが届かない。ラジオが届かない。雑誌も新聞も届かない。友人からの手紙も。家族からの手紙も。恋人からの手紙も。任期満了を告げる報せも当然届かない。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 いつまでこんな生活を続けなければいけないのか。慢性的な寝不足と、強い重圧と緊張に徐々にくたびれていく神経。いつからか男は、数時間ごとに泣くようになった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 時は容赦なく経つ。そのうち、別段悲しくなくても、自然と涙が出るようになった。缶詰を開ける。するとなぜか涙が出る。濡れタオルで身体を拭く。するとなぜか涙が出る。水を飲む。なぜだか知らないが目から涙が滲み出る。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 本部からの呼び出しが恋しくなった。人との会話に飢えた。皮肉なことに、数日に一度だった本部からの呼び出しは、一ヶ月数回に減っていった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 一ヶ月が経ち、二ヶ月が経ち、半年が経ち、一年が経った。変わり映えのしない三百六十余日。敵は来ない。味方も来ない。男の住むやぐらに来るのは野鳥と月に一度のヘリコプターだけ。ひょっとすると戦争はもう終わってしまっているのではないか。これは上官からのイヤガラセではないのか。男は、不仲だった上官との確執を思う。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 毎月定められた日に来ていたヘリコプターが、その月は遅れた。男は今か今かとヘリの到着を待った。敵地監視そっちのけで、自軍領地の方角を見張り続けた。雷のようなプロペラ音が聞こえた時、男はやぐらを降りて、地上で諸手を振った。ちから一杯。聞こえるはずはないのに、行かないでくれ行かないでくれと懇願しながら。
 ヘリコプターの操縦士は、男の姿に全く気付かなかったのか、はたまた気付かぬふりをしたのか、あたかも自動操縦のような動作で物資を落とし、悠々と去って行った。男はくずおれた。
 物資袋の中には食料品の他には何も入っていなかった。親しい人からの手紙はもちろん、日用品すら入っていなかった。食料品も、たった3種類の缶詰と水だけだった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 その翌月の物資輸送はさらに遅れた。ヘリが飛来した時、男はやぐらを急いで降りるあまりハシゴから足を踏み外し、腰を強打した。しばらく立てなかった。這うようにして物資の詰まった袋に近づいた。
 男はその日、やぐらの上に登らず、赴任して初めて、地上で一晩を明かした。缶詰をひとつ、手近な石で壊して開け、中身を手づかみで食べた。恋人を想い、ぬめった手で自慰をした。あの子はもう他に男を作っただろうな。
 翌日には再びやぐらに登り、また同じ一日を過ごした。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」。前日、無線機での定期報告を怠ったのだが、それに関して何もおとがめが無かった。どういうことだ。定期報告はしなくても良いのか。男は自分の存在価値を心底疑う。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 抜き打ち無線は三ヶ月以上途絶えていた。男は次第にいい加減になっていった。戦地の、しかも最前線にいるということすら忘れたかのように、緊張感を喪失していった。禁固刑に服している囚人のように無気力な日々を過ごした。一度しかない人生を、浪費していることへの絶望。無音震動アラームをやぐらの上から投げ捨て、一日八時間の惰眠を貪るようになった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 有り余った時間の捨て場所に窮した彼は、度々やぐらを降りて地上を歩き回るようになった。一度などは川を渡って敵地を歩き回ったことさえある。どんな臆病者でも、これほどの長期間「イジョウナシ」ならば、さすがに平和ボケするのも無理はない。
 戦時下とはとても思えなかった。ここが戦争の最前線であるとは信じられなかった。しかし事実はやはり、交戦中なのだった。男の住まうやぐらは要所である。一旦戦闘が始まれば激戦になるのは疑いなく、そうなれば両軍ともに甚大なる被害が生じるのも明らかで、然るがゆえに両軍から意識的に無視されている地区なのだった。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 半年ぶりの抜き打ち無線時、彼は運悪く近くの森を散歩していた。定期報告時に不在の理由を問われた。小便をしていたと取り繕うが、大目玉を食らった。
 男は激しく泣き声を上げながら、暗合を用いない直截の言葉で、上官に訴えた。
「畏れながら申し上げます。も、もしかしてせ、戦争は終わってるんじゃ。戦争は終わっているのではありませんか。わ、わたくしをだまそうと。みんなでグルになって。そ、そうだ。ききききっとそうだ。戦争はとっくに終わっているのに、みんなでわたくしを困らせようと、こ、こんなイタズラを。きっとそうであります。そうなのでしょう。そうなのでしょう上官。上官はわたくしを憎んでいらっしゃるのです。上官はわたくしが憎いのであります。そうでしょう。きっとそうだ。きっと。きっと」
 まともに相手にされず、任期の延長だけ告げられ、無線は切られた。
「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 それから一ヶ月、変わり映えの無い日が続いた。鳥のけたたましい鳴き声に驚かされた以外は。
 仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」仮眠を取り、地平線を睨み、食事をし、無線を送る。「ホンジツ、ゼンセン、イジョウナシ」
 無為の日々。抜き打ち無線すら途絶えた。彼はもはや発狂寸前だった。何事か起きなければ、必ず発狂していただろう。
 その何事かが、起きた。赴任してから二年三ヶ月目の、暑い夏のことであった。
 ある日、司令部に、待ってましたとばかりの陽気な声で連絡が入った。
「敵影確認。小一個隊。ただちに応援求む」
 あまりに唐突なことだった。そして、緊急事態をまるで祝福するかのような男の欣喜雀躍とした声に、司令官はハッキリと不快感を露わにした。
 この方面に徴兵されて軍事訓練を受けていた新米の兵士たちは、この有事に急遽駆り出された。緊張が走った。入隊して間もない、子どものような兵士たちは、皆一様に不安を顔中に漲らせていた。
 五十人からなる偵察兼応援部隊が現場に駆けつけると、やぐらはメタメタに崩れていた。近くには、敵兵はおろか、やぐらを守る駐屯兵の姿も無かった。遅かったか、と、兵士の誰もが思った。
 五十人は手分けして駐屯兵の行方を捜索した。どうせ死んでいるだろう。このやぐらに在駐していた駐屯兵の救われない状況を知っていた兵士の一人は、心の中でそっと、「これでようやく彼も呪縛から解放されたな」と、切ない哀悼を捧げた。
 トイレが地上に落下していた。ドアが閉まっている。もしかして中に駐屯兵が居るかも知れない。逓信兵がドアを開けた。
 すると、ドアに仕掛けられた起爆装置が作動したのだろう、爆弾が炸裂した。トイレは大破し、ドアを開けた逓信兵の身体は吹き飛んだ。
 その爆音を合図にしてか、森から銃弾が飛んできた。二等兵が被弾して絶命した。部隊は大いに慌て、総員が地面に伏せる。
 敵方から発射される弾丸の数は少ない。どうやら少数の敵兵がスナイパーライフルを用いてゲリラ戦を展開し始めたらしい。
 上等兵が地面に身体を伏せたままロケットランチャーを森に向けた。死の恐怖、そして戦争の恐怖に負けまいとする鬨の声を挙げて、敵の潜んでいるあたりに砲撃する。
 発射。尻から火を噴いてロケット弾が飛んでいく。
 着弾。森の暗がりが閃光で照らされる。
 爆発。舞い上がる木の葉と飛び散る枝。立ち昇る一条の煙。
 静かになった。敵方からの銃声は止み、森は死んだように沈黙した。
 数名の勇気ある兵士たちが恐る恐る爆心地に近づいた。
 命中していた。──敵に? いや。そこには、あの駐屯兵が瀕死で横たわっていた。腹が破れ血にまみれ、泥まみれの顔で笑っていた。笑っている。満足そうに笑っている。
 それを見た兵士たちは茫然と立ち尽くし、ただ、言葉を失った。
 ──悪貨は良貨を駆逐する。流通量のバランスは崩れ、貨幣の価値は下落する。同様に、退屈は人生を蹂躙する。有り余った暇は時間の価値を忘却させる。余剰な時間は充実した活動を阻害する。男は、膨大な時間の塊に圧殺された。
「ホンジツ、ゼンセン、シシャ、サンメイ」


不良。雨の日。捨て犬。   (2007/08/09)
 「垂乳根の」と来れば「母」である。
 「拝啓」と来れば「敬具」である。
 「祇園精舎の」と来れば「鐘のこえ」である。
 同様に、「犯人の体型は」と訊ねられれば「中肉中背」であり、「志望動機」を問われたら「御社の社風が自己の性格に最適」、「おかゆい所はございませんか」と聞かれたなら「ありません」と答えるのが常道だ。これらは暗黙の了解だ。紋切り型の問答だ。これ以外の受け答えは、ない。あってはならない。これ以外の受け答えは規則違反である。
 そして当然ながら学園生活にも厳密な法則性がある。どこぞの令嬢の登下校は執事が外車で送迎である。バッサリ髪を切れば失恋である。スニーカーのヒモが切れたら不吉な予感である。林間学校で最初に眠ったらオデコに肉の字である。空き地で野球をすれば必ずカミナリおやじの家の窓が割れる。窓でなければ高価な盆栽が壊れる。遅刻ぎりぎりトーストをくわえたまま走っていたら曲がり角でゴッチンコしかもそれは本日転校して参りましたテヘヘみんなヨロシクな同級生でア~おまえは今朝ぶつかったヤツゥのあいさつのあと席は隣になるのである。──体育館裏に呼び出された場合だけは例外、愛の告白かボコボコにシメられるか天国地獄の二者択一となる。
 この通り、世の習わしは連動している。甲の現象が発端となって乙の現象が引き起こされる。甲から乙。甲から丙では決して無い。「バッサリ髪を切ればオデコに肉」とはならない。当たり前だ!
 しかしそんな当たり前がくつがえされた。
 シトシトと雨の降る、夏にしては肌寒い日のことである。
 その日、日直だった私は、放課後、先生にプリント印刷を手伝わされていた。印刷機のトラブルで時間が掛かってしまい、下校する頃には日も暮れ始めていた。
 公園を通りかかると、ベンチのそばで、一人の生徒が傘も差さずにしゃがみこんでいた。長倉先輩だった。
 長倉先輩は不良である。
 しかし不良ではあるが、同類のチンピラ連中とつるむことのない、一匹狼のような存在だった。どことなく男気のある、言ってみればバンカラ気質の前時代的な不良だった。
 かがんでいる長倉先輩の足下には「拾って下さい」と書かれた段ボール箱が置かれていた。箱の中には不安そうな顔をした子犬。
 一匹狼の不良。雨の日。捨て犬。またとない格好の素材である。ここから導き出される答えはもちろん「普段は怖いと思っていた不良が雨の日に子犬を助けていて知られざるその優しさに胸キュン」である。
 しかし。
 私の気配に気付き、こちらを振り向いた長倉先輩は、口の周りが血だらけだった。
 長倉先輩は子犬を食っていた。


公開処刑   (2007/08/02)
 テレビの前のみなさん、こんばんは。広大な敷地面積を誇るマサクール・パークから生中継です。実況を務めるのはわたくし鎌田。解説は中世拷問史に詳しい作家の谷口さんにお越し頂いています。谷口さん、よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
 さて。我が国今世紀初となる公開処刑がこれからいよいよ執行されますが、お楽しみの前にまずは公開処刑の歴史と解禁に至るまでの経緯についてお話し下さい。
「はい。江戸時代以前はご存じの通り公開処刑はポピュラーなものでした。まず、市中引き回しの末の打ち首獄門。縛り上げた罪人を馬に乗せて町中をひねもす連れ回し、充分見せしめにしたあと、刀ですっぱり首を斬り落としました。胴体は埋葬し、首は防腐加工の塩漬けにされ、台に載せて見せびらかされました」
 首実検ですね。武士による切腹とはどう違いますか。
「あれは強制自決です。本来は腹を真一文字に割いたのち、刀を翻して心臓目がけて斬り上げるのが一人前の侍の所作です。首を落とす介錯人は、心臓を自ら斬り上げられぬ腕の未熟な者のために存在する、いわばお手伝いさんです。本当は己一人で一連の動作すべてを完遂しなければなりません」
 なるほど。勉強になります。斬首刑のほかにはどんな処刑方法がありましたか。
「江戸時代は切捨御免といって、侍が手続きを踏まずに町人を成敗する権利がありました。これも公開処刑の一種でしょうね。とにかく刀を用いた斬首が盛んでしたが、一部では火刑や磔刑もありました」
 火あぶりの刑と、はりつけの刑ですね。まるで魔女狩りやイエスの受難などの西洋における死刑制度を思い出しますが、日本でも行なっていたのですね。
「伝説の大泥棒・石川五右衛門は釜茹での刑にされたと伝えられています。五右衛門風呂の語源ですね」
 日本国以外の公開処刑はどうでしたか。ギロチンの刑とか。
「海外には残酷な公開処刑がたくさんありました。特にスペイン暗黒時代の宗教裁判が世に名高いですね。異端者には考え得る限りの苦しみを与えてじわじわ殺そう。そういう残酷な手法です。たとえば、巨大な車輪と車輪の間で圧死させる車刑、縛り付けた罪人を溺死させる溺刑、受刑者の各足と二頭の牛をロープにつないで左右に引き合う股裂き刑、などなど…。中世暗黒時代のキリスト教教会は拷問処刑のスペシャリストでした。特にトルケマダ裁判長の発明した数々の拷問器具は有名で、彼は世界中の死刑執行人たちの憧れの的です。それから、中東では観客参加式の石打ち刑が古来より現在まで脈々と受け継がれています」
 それは楽しそうですね。昔ながらの伝統を保護していくのはとても大切な事です。
「この石打ち刑は姦通罪に問われた女性に対して執行されます。顔だけ出して土中に埋め、その顔めがけてみんなでよってたかって死ぬまで石を投げつけるという」
 姦通って言うのは不倫の事ですよね。イスラム文化圏は女性の浮気にとても厳しく、発覚したら厳罰を以て臨むと伺いましたが、本当なのですね。それにしてもいいですねえ、石打ち刑。ゲーム性にあふれていますし、共同作業という事で参加者は一体感を味わえますし、我が国でも好評を博すのではないでしょうか。
「石打ち刑に関しては国民からリクエストが殺到しているようです。実現は時間の問題でしょう」
 とても楽しみですね。
「はい。それでは次に、法律改正の動きについてお話しします。東京時代中期、世界全体の死刑執行数の実に約九割を中華人民共和国が占めていたってご存じですか」
 え。あの中国ですか。社会主義国家だったころの。
「そうです。先進国のほとんどが死刑制度を廃止していたというのも統計には影響しているのでしょうが、なにより中国がそれだけ活発に殺しまくっていたという事です。もともと人口が多いとは言え、圧倒的な死刑回数でした。人口抑圧のために簡単な罪でも重罪としていたそうです。銃殺が主だったようですよ」
 なるほど。そのころの中国を見習って、今の日本の法制度が整えられたのでしょうね。公開処刑が復活してきた背景が段々と見えて参りました。
「我が国でも前世紀あたりから人口が爆発的に増え、住みにくい世の中になってきました。貧富の差が激しくなり、犯罪も増加しました。それにともなって死刑囚の数も激増したのですが、人知れず彼らを葬ってしまうのはもったいないですし、それだけの数の罪人をただ死なせるのも惜しい。そこで、中世以前の公開処刑を一般化し、なおかつエンターテインメント性を盛り込もうではないか──そういう動きがここ十年の間に国会で活発となってきました。自然の趨勢として、昨年ついに法案が可決されました」
 反対の声も大きかったと聞きますが。
「野党からは猛烈な反発がありましたね。しかし世論はあらゆる情報の開示を求めていますから、賛成多数で比較的すんなりと国会を通過しました」
 で、法案成立後初となる公開処刑の執行です。ずばり、見どころはどういった所でしょう。
「何と言っても筆頭に挙げられるのは今回の死刑囚の人気度ですね。名の知られた凶悪犯よりも、国民から死を臨まれていた人物。死んで欲しい人アンケートでは毎年首位を独走、ぶっちぎりの得票数で選ばれたこの…」
 芸能リポーターの支那戸。わたくしの先輩です。
「彼の死は国民の総意ですからね」
 お茶の間のみなさんもテレビの前でその時を今か今かと待っている事でしょう。申し訳ございません、お時間までもうしばらくお待ち下さい。
 支那戸死刑囚の簡単な経歴を一応。支那戸は査丸大学社会学部を卒業したあと我が極西テレビに入社、報道部に配属されます。数々の芸能スキャンダルをスクープして知名度を高めたのち、今から五年前にフリーのジャーナリストとして独立。有名人に対する行きすぎた身辺調査や突撃インタビューが大いに反感を買う中、プライバシー侵害のカドで逮捕・立件されました。
「たしか、一審で死刑宣告を受けたんですよね」
 一発判決でしたね。支那戸は上告しましたがすぐに棄却されました。
「当たり前ですよ。鎌田さん、彼はどんな人物でしたか」
 当時からいけすかない先輩でしたね。キライでした。そりゃあ、報道に関するイロハを伝授してもらったり、ゴハンをおごってもらったり、かわいがってもらいましたが、今から思うと恥ずかしい。いくら無理強いされてのご相伴だったとはいえ、暴君的な支配下に置かれていたとはいえ、もっと勇気を出して交際を断るべきでした。いや本当にお恥ずかしい。
「直属上司の威光を笠に着て鎌田さんを舎弟あつかいしていたのでしょう。逆らえなかったのは当然ですよ。あなたに非は無い」
 そう…そうなんですよ。もし歯向かっていたらわたくしの私生活も盗撮盗聴されていたかも知れませんからね。なんなのでしょうか、ああいう人種は。
「病気ですよビョーキ。田代まさしという伝説の悪人と同じ症状でしょう」
 やっぱりそうでしたか。思った通りだ。おかしいと思ったんですよ、だってあんなに常軌を逸した行動…。百回殺しても足りないくらいです。国民のみなさまが怒るのも無理はございません。
「鎌田さん、それからもうひとつ、大きな見どころがあるんです」
 人気ナンバーワンの支那戸が出演するというだけで注目度は尋常では無いというのに、さらにお楽しみがある、と。それは何ですか。
「処刑方法が直前までは内緒だという事です。一昔前までは、日本国内における死刑は絞首刑・いわゆる首吊りのみでした。しかし法律の改正によりあらゆる死刑が選べるようになりました。記念すべき公開処刑一回目は、どんな方法が採られるのか。マニアならずとも気になるポイントですね」
 処刑方法は誰が決めるのですか。
「基本は被害者や被害者の遺族の希望を優先します。予算的に難しい計画でなければ、どんなに無茶でどんなに残酷な刑であっても申請できます。実行が不可能だったり、特に希望がなかった場合は昔ながらの絞首刑が採用されます。ただ、絞首刑は絵ヅラが汚く、食事時の放送にはあまり向かないため、被害者には極力創意工夫のある処刑企画案を提出するよう裁判所が指導しています」
 この生中継番組は今後毎週放送して行くわけですが、次々に出演者が決定していますよ。処刑の仕方も順に提案されているようです。谷口さん、どんな死刑が人気があるか、わかりますか。
「犯人に家族を殺された人の多くは、同じ目に遭わせて欲しいと提案しますね。アメリカの電気イスや薬物投与・ガス室などの古典的な手法を望む人も少数ながら居ます。変わった所では、餓死・バックドロップ百連発・くすぐって笑い死にさせる・大量の生きたゴキブリを飲ませて腹から食い破らせる、などが提案されています」
 餓死は時間が掛かりそうだから生中継向きではなさそうですね。観察ドキュメンタリーとしてまとめられそう。ところで、支那戸の処刑方法は誰が企画したのですか。
「不特定多数の被害者が居る場合、いくつかの案の中から投票によって決定されます。支那戸はそれこそ全国民から恨まれていますから、特例としてハガキでの公募となったようです。死刑運営委員会に届いたハガキの総数は、なんと百万枚超」
 いかにこのイベントが熱望されていたかが窺えますね。
「中には『死刑は廃止するべきだと思う』なんてイタズラの手紙も含まれていたようですが、ほとんどの方が真剣に考えて送ってきたそうです。委員会の人たちも感心していましたよ。没となったアイデアでも、たとえば『宇宙空間に放り出す』なんてものもありました。これ、窒息死より先に、全身の血液が瞬時に沸騰して死ぬと言われています」
 面白そうですねえ。夢があるなあ。
「ふふふ。支那戸に対する実際の処刑方法はどうなるか。今からわくわくしますね」
 あ。いよいよ時間が迫ってきました。視聴者のみなさん、お待たせ致しました。公開処刑執行まで残りわずかです。支那戸死刑囚は今一体どんな気持ちなのでしょうか。現場の及川さん?
「及川です。鎌田さーん。ぼくがどこに立っているか、わかりますかぁ?」
 高い場所のようですね。どこかの屋上ですか。
「そうでーす。ぼくは今、地上二十メートル、第六屠殺場の屋上に立っていまーす」
 第六屠殺場というと、おもに拷問専用の処刑場ですね。となると、ははあ、ピタゴラ装置による最新式の処刑ですか。
「いいえ。残念ながら違うんです。視聴者のみなさんが選んだ処刑法は、コレ。突き落としでーす」
 突き落とし。屋上から突き落とすわけですか。それはまた単純な…。谷口さん、突き落としですって。
「いや、驚きました。わたしもピタゴラ装置式処刑だと予想していました。ピタゴラ式は最もテレビ向きであり、公開処刑の目玉とされていましたから」
 ですよねぇ。遠くの仕掛けが作動し、鉄球や大鎌が囚人の命を狙う。見た目も楽しく華やかですし、スリリングかつエキサイティング。
「それが、まさか突き落としとは。全く予想していませんでした。この単純明快な処刑スタイルは、人類の文化が未発達の頃に行なわれていた原始的な処刑スタイルですよ」
 どうやらわけありですね。何か理由があるのでしょう。
「あ、支那戸が姿を現しました。支那戸が姿を現しました。四名の執行人に付き添われ、手錠姿でこの屋上にやってきました。支那戸さん、今の心境を一言!」
「……」
 意外と元気がありませんね。いつものように悪態をついてくれるかと思いましたが。
「昨日は眠れましたか。遺書は書きましたか。死刑台のエレベーターとか聞きましたか」
「うっさいんだよ!」
 おお、吠えております。支那戸が吠えております。自分の悪行三昧を棚に上げて喚き散らしております。突撃リポートと称し、これまで何度と無く芸能人を困らせてきたのに、いざ自分が取材されると逆上しております。なんて勝手な男でしょう。
「ははあ。わかりましたよ。なぜ刑の執行が突き落としなのかが。一年ほど前、アイドルが投身自殺をしましたよね。あれでしょう」
 あ、なるほど。わたくしにもわかりかけてきました。みなさんもご記憶に新しいかと思いますが、昨年の一月、アイドルの××さんが所属事務所のビルから飛び降り自殺をしました。
「実に嘆かわしい事件でしたな。わたし、あの子のファンだったんですよ」
 忘れられない事件ですが、その時の支那戸の行為も忘れがたい非道でした。まだ遺体も片づけられていないというのに彼はズカズカと事務所に潜入し、スクープを求めて突撃取材を敢行したんです。事務所側も突然の惨事で大混乱しているというのに、マイクを突き付けて「恐縮です! でも、話して下さい。サァ! サァ! しゃべれ!」と。極悪非道ですよ。
「彼には死を悼む気持ちがまるで無い。そして、悲しみに暮れて茫然としている方々の心を容赦なく踏みにじる。鬼畜です」
 支那戸の罪は数多いですが、あの時の取材は特に許せませんよね。おそらく、あの取材に対する不快感が、国民のみなさまに突き落とし刑を選ばせたのでしょう。不肖鎌田、国民のみなさまの義憤を強く感じ、身の引き締まる想いです。突き落とししかございません!
「鎌田さーん」
 はいはい及川さん?
「ぼくは今、落下地点にスタンバイしていまーす。間もなく刑が執行されますよー。」
 いよいよですね。お待たせしました。我が国今世紀初となる公開処刑、執行のお時間です。
(第一カメラ:第六屠殺場を遠距離撮影)
 それでは参りましょう。
 カウントダウン、五秒前。
 よーん。
 さーん。
 にー。
 いーち。
 ゼロ! 執行!
(第一カメラ:屋上から右側の宙に向けて打ち出される人影。空中でもがきながら落下)
(第二カメラ:コンクリートの地面にしこたま叩き付けられる支那戸)
 やりました。お聞きいただけましたか、骨の砕ける衝撃音を。ご覧下さい、この支那戸のぶざまな姿を。
 まだ息はあるようです。全身を複雑骨折させ、鮮血に染まり、ピクピクと痙攣しております。カメラさん、顔を映せますか。あ、こめかみ当たりから頭蓋骨が割れ、灰白色の脳漿が少しハミ出していますね。白目を剥いている。あはははは。あ、及川さんが駆け寄ってきました。
「恐縮です! 支那戸さん、今のお気持ちは?」
「……」
「恐縮です!」
「……」
「うーん。どうやら口を聞くことが出来ないようです」
 及川さん。もしかして口を閉ざしているだけかも知れませんから、蹴ったり殴ったりして無理矢理しゃべらせてもらえます?
「かしこまりました。おいっ!」
「……」
「このっ!」
「あ…ぐ」
「しゃべれ!」
「うっ。うぐっ」
「このっ。クソッ。これでもしゃべらんか!」
「うぅっ、ううぅ…」
「ハァハァ…。ちょっとダメみたいですね。脳みその一部が飛び出しちゃってますから、言語中枢が破壊されてしまっているかも知れません」
 結構です。ありがとうございました。それでは、リプレイを見てみましょう。
 まず、第三カメラからの映像です。突き落とされる直前の支那戸を落下地点からズームアップ。ご覧下さい、このこわばった表情。いかに緊張しているか見て取れますね。
「下から見上げるとそれほど高く感じませんが、いざ屋上に上ると高さに震え上がるものです」
 そうですよね。この程度の高さで、人って死んでしまうんですよねぇ。……あっ。すごい顔。
「これは突き飛ばされた瞬間の表情です。ぶざまですねぇ」
 本当にそうですねぇ。目をカッと見開き、恐怖に顔が歪んでいます。どうして人間は口が開いているとバカそうに見えるのでしょうか、不思議なものです。
(第一カメラが捉えた映像のスローモーション再生)
 ああ、すばらしい画ですね。人が落下しているとはとても思えない、どこか風情すら漂う自由落下運動です。支那戸の身体は地面に向けてグングン加速しているはずですが、スローで見ると一定の速度でふんわり降りているように錯覚しますね。
 しかしこちらをご覧ください。支那戸の目玉の結膜部分に取り付けた小型カメラからの映像です。スローではなく、実際のスピードでどうぞ。
(第四カメラ・支那戸視点からの映像)
 ちょっとゾッとする映像です。グングン迫る地面! カメラが地上めがけて落ちているのではなく、巨大な壁があちらから向かってくるようにも思えます。これは怖いですねぇ。支那戸は目を開けていましたから、この恐怖を実体験したわけです。いいザマです。
(第二カメラが捉えた映像のスローモーション再生)
 そしてこれが第二カメラからのスロー映像、支那戸が地面に叩き付けられる瞬間です。頭から落ちて即死しないよう重心調整のウエイトをつけていたので見事胴体の前面から落ちています。うわー、生々しい。水袋が破裂したかのような血の噴出です。地面とは反対方向、つまり天空に向けてブワッと持ち上がる赤い液体。口から耳から、裂けた肉の隙間から、おびただしい量の血が吐き出されています。
 解説の谷口さん、わたくし、墜落死は落ちた瞬間は無血で、その後じわじわと体液が体外に流出するものだとばかり思っていましたが、墜落の瞬間も案外すごい量の血が噴き出すんですね。
「人体の六十パーセントは水分だそうですが、それが実感できる映像ですね。映像には映っていませんが、接地角度から言って、腹も破れているはずですよ。血液の他にも胃の内容物や便が飛び出していることでしょう」
 なるほど。皮が弾けて中身が絞り出された風ですね。視聴者のみなさん、血に混じって細かい骨の破片も飛び散るのがご覧いただけますでしょうか。ものすごい衝撃です。物理学界の権威・伊刈信長博士によると、落下の衝撃は時速百キロで走るダンプカーとの衝突に匹敵するそうです。
 ダンプカーに潰されるイメージを喚起させる、わかりやすいリプレイ映像が用意できました。ご覧下さい。
(画面が横になり、支那戸は空中を走っているような姿勢になる。画面右側から巨大な壁が迫り、支那戸はグチャリと潰される)
 落下する支那戸と並行して移動した第五カメラ、その映像を左に九十度傾けてお送りしました。
 スロー再生でもう一度。
 はい。走り幅跳びで飛距離を伸ばそうとする陸上選手のように、支那戸は宙を蹴っています。支那戸の姿は画面中央に据えられたままですから、地面が支那戸に向かって突進してくるように見えますね。その衝撃はダンプカーの比ではありません、なにせ衝突してきた相手は地球ですから。重量がまるで違います。人体を粉砕する破壊力にも納得がいく映像ですね。
 ──さあ、いかがだったでしょうか。生中継でお送りしました、我が国今世紀初となる公開処刑。お楽しみいただけましたでしょうか。来週以降もみなさまの嗜虐性を必ずや満足させる出演者が続々登場いたします。ご期待ください。
 おや? 現場が少し騒がしくなってきましたが、何かあったんでしょうか。
(観覧席が映し出される。観客は声を合わせて何かを叫んでいる)
 おおー。お聞きいただけますでしょうか。観覧席からの壮絶なまでのアンコールが。刑の再執行を要求しています。公開処刑第一回目から、いきなりのアンコールです。
「これはやるでしょう。救命処置」
 谷口さんの言葉通り、今、満を持して医師団が出て来ました。すさまじい大歓声です。谷口さん、ここでアンコールの仕組みについて教えて下さい。
「はい。公開処刑におけるアンコールは、死にかけの受刑者を最先端の医療技術で蘇生させ、もう一度処刑する制度です。アンコールを行なうかどうかは、死刑運営委員会本部の判断によって決定されます」
 死刑ですから、死ぬのが前提なわけですよね。受刑者が瀕死の状態もしくは心肺停止状態になったとしても、蘇生させられるものなのでしょうか。
「凄腕の医師ばかりですからね。肉体が原型を留めている限り、どんな重傷の患者でも──たとえば腕がもげたり脚部が胴体にスッポリめり込んだり、頸椎が完全に破壊されたりしていても、そうですね、まあ三十分もあれば意識を取り戻してですね、ある程度の障害は残るとしても、また苦痛を存分に感じられる五体そろった身体になるのではないでしょうか」
 医学の進歩はカラ恐ろしいですねぇ。──さあ、施術が始まりました。あ、これ、患部に直接手を突っ込まれて藻掻き苦しんでいるみたいですが、麻酔は使いませんか。
「それはもちろん。麻酔の効果が残ってしまったら、フラフラしちゃって刑の再執行に臨めないではないですか(笑)」
 あ、それもそうですね、失礼いたしました(笑)。ところで、応急処置を施したとして、しゃべれるまでに回復するものでしょうか。
「今回は脳漿が散っていますから、ひょっとすると高度な言語活動は難しいかも知れません。しかし、あの程度の外傷なら、ある程度のコミュニケーションを交わせるまでには回復するはずです」
 もし、少しでもしゃべれるとしたら、今の支那戸は何とコメントするでしょうか。
「もう許してくれぇ、じゃないですかね。まあ、許しませんがね」
 お茶の間の皆様、応急処置が済み次第、ゲーム再開です。もうしばらくお待ち下さい。──えー、と、お待ちいただく間、アンケートにお答え下さい。アンケートの質問は『二度目の死刑は何が良いか?』です。二度目の死刑は、何が良いか。極西テレビにどしどし回答をお寄せ下さい。お待ちしております。
 うーん。もう一度突き落としを見たい気もしますけどねー。個人的にはピタゴラ装置式処刑も見てみたい。
「何度もアンコールすればいいんですよ」



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